富野ガンダム直系! 『クロスボーン・ガンダム ゴースト』1巻:感想

2012年6月24日
長谷川裕一 作『クロスボーン・ガンダム ゴースト』1巻を読んだ。

機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト (1) (カドカワコミックス・エース)機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト (1) (カドカワコミックス・エース)
(2012/05/25)
長谷川 裕一、 他

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・相変わらず絵がヘタだ! カバー絵のクロボンの時点でもうバルカンの付け根の、のっぺり感とかもうヤバい。
だけど本編を読んでる間はそんなこと微塵も感じない!圧倒的漫画力は健在。シリーズとして続いたことでむしろこなれてきている。

■ロボットもののベテランとしての実力
・ロボットの描き方は読んでて本当に震える。1話の描き方なんて完璧だ。
冒頭で連邦対ザンスカールの戦争を語る中で映すのみで、一切MSを描かない。ガンダムに至っては匂わせもしない。全体の半分が過ぎてついに登場する機体。それがサンドージュ! サンドージュかよ…と思わせておいて人の意思で動く巨大機械がどれほど恐ろしいかを生身の視点から描き出している。
サンドージュの脅威に対し、ついに表れるガンダム! その描き方がまた王道でかっこいい。謎の霧の発生。別の熱源体の接近を知らせるアラーム。主人公を跨ぎ、守るように敵へと向かうシルエット。そこに迫るは察知した敵の集中砲火! ビームを受ける中、翻るマント。次に映るのはクロボンの象徴であるX字のスラスター。熱風で霧が吹き飛んだ後に待ち受けるのは仁王立ちするガンダム! 登場だけでもうお腹いっぱい大満足ですよ。

・個人的にはデスフィズの登場シーンが一番好き。たった5ページの間にロボットものの敵に必要な要素が全て詰まっている。
ガンダムの活躍に敵が怯んだ瞬間、脱出を図るガンダム。そこに響き渡るヘリのようなローター音。だがそこに見えたのはザンスカールとは違う異形のシルエット。腕部のローターを止め、垂直落下する敵機。巻き上がった粉塵が晴れた瞬間、目に飛び込んできたのはしゃがんだままビームネイルを構えた明確な敵。棒立ちのザクに乗る主人公に対し、いち早く身構えるガンダム。暗殺者を思わせるテンガロンハットを被った出で立ちが、次の瞬間ガンダムと同じフェイスオープンによる放熱を行い鋭い目を覗かせる。その姿に読者が驚愕した次のページに待ち受けるのは、雄叫びを上げるかのようにビームローターの風切り音を上げ、行く手を阻むデスフィズ!

異形の敵が主役と同じ力を持つ驚き。ピンチを切り抜けた先に待ち受ける新たなる敵。
ライバルとして必要なものがここにある。ここで切られて次回に続くとなりゃあ、読まないわけにはいかないね。

■細部にまで表れたガンダム愛

・随所にガンダム愛がガンダムの二次創作としても素晴らしい!
ゾロアットの特徴であるネコ目を演出に組み込んであったり、増援に来るはずだったビルゲナウが戦闘前にやられてたり、クロボンに登場してない機体にも思い入れが感じられる。

・中でもクロボンvsゾロアットのシーンで、サーベルをゾロアットが肩のビームシールドで防ぐシーン。火花飛び散るシールド越しにゾロアットの顔が熱で歪んで見える。ビームシールドならではの演出はすごく愛を感じた。
画的にかっこいいだけじゃなく、Bシールドを貫通してきたのクロボンのサーベルを防いだことで、機体性能の差がないとわからせるとこがまた痺れる。

・ザクの登場シーンがまた良いんだ。基本的に膝を曲げて跳ぶような生物的な動きが多い中で、ザクだけ直立してリフトアップ→モノアイ点灯だもの。ピシっと足を揃えてるあたりがすごく大河原っぽい。

・戦闘シーンでもUCの歴史を踏まえた戦法が光る。圧倒的に性能で劣るザクで敵MSの攻撃を回避できた理由。それは小型化され15MサイズのMSが標準になったVガンの時代では、若干大きいザクに対しCPUが相対距離を誤認してしまうからだ! 思わず「なるほどッ!」と思わせる演出だ。このサプライズを実行した主人公の実力に結びつけるあたりがまた上手い。身体性を伴う内容だから、ガンダム未見の人でも理解できる。全く脱帽です。

■クロボンとしてのオリジナル
・これだけ従来のガンダムに対する理解と愛がある中でも、クロボン単品としての魅力も描いている。
木星製の新MS、『デスフィズ』は優れたデザインだ。テンガロンハットを被った如何にもイロモノなデザインと思いきや、顔の横からのアップが映ると角ばった顔つきがペズ・バタラを彷彿とさせ木星製だとすぐわかる。その直後にフェイスオープン式の放熱ギミックを映すことでシリーズ読者に木星にクロボンの技術が取り込まれていることを暗示している。登場からのたった3ページの間にこれだけの感情を読者から引き出している。
元から人気のあるUCの機体も取り上げる。でもそれ以上にオリジナルの機体を盛り上げる。この姿勢がある限り、クロボン読んで後悔することないと思うな。

■マンガ≠イラスト集

・長谷川先生は絵はひどいが、マンガの上手さではトップクラスだと信じてる。本巻でも作中に引き込まれるようなシーンが続いている。その秘訣は富野監督の説く映像の基本原則にも通ずるところがあると思う。

・『映像の原則』で監督は「カットの頭待つな。」と説いている。これは決めポーズのような静止した画から描写し始めると、不自然な間が生まれてしまう。だからカットの始めは動きの途中段階からスタートすべきであるという考え方だ。長谷川先生のマンガには、これと同じ考え方を使って描かれていると思う。

・注意して見れば、アクションシーンでは極力動きの始めと終わりを描いていない。敵の攻撃を回避するガンダム→ビームサーベルを抜く→切る。ではなく、攻撃を回避した終わり際から始めて→サーベルを振り下ろす→宙を舞う敵の頭部→着地で決め。と常にガンダムが動いているように見える構図を心がけていることがわかる。
他のシーンでもアクションの始めと終わり、戦いの切れ目ではなく、動きの起点から20%、80%の描写をつなげてある。

■アクションの繋ぎ目の解消
・先生が特にすごいのは、これを集団戦と組み込むことでアクション同士の繋ぎ目を無くしていることだ。いくらアクションの起点を描かないようにしても、各アクションの間には着地やサーベルで切った後など必ず動きが止まらざるを得ない状況が来る。先生はそれを集団戦として描くことで解決している。

具体的には、主人公機の傍らで弱い味方や強敵を出すことで解決している。主役が敵を倒して静止した次のカットに敵と戦う味方や暴れる強敵を描くことで、そこに主役機が助けに入る/止めようとする。いわば他者が動くその流れをそのまま主役が乗っ取る形にしている。他者を挟んで主役の動きを論理的破綻なくつないでいく。このつなぎ方が実に鮮やか! 読んでいて、戦闘の流れの切れ目を感じない。話の都合で止まった感じがしないことに1種のリアリティすら感じる。

■あえて綺麗に描かない意味
・長谷川先生のマンガにはキャラが”ブレた”画が多く使われる。古いアニメでも瞬間移動のシーンとかで良く使われているアレだ。写真でも同じことがあるように動いている物体を静止画で捉えると対象物の輪郭がぼやける。先生はこの画をキャラ/ロボットをコマに登場させるときに使う。そうすることでキャラが劇中で今も動いている途中であることがはっきりと伝わるからだ。

・それ以外にもう一つ、読者への心理的効果もあると思う。
誰しもスポーツをしているときなんかに経験があると思うが、動いているはずなのに目の前の光景が一瞬、止まって見えることがある。たとえば野球の守備をやっていて、顔の真横をライナーが抜けていった瞬間。現実には止まらずに反応できない早さで通り過ぎたはずが、そのときのことを思い返すとボールの縫い目まで見えたように思えることがある。

クロボンも動きの途中でブレた画と完全な静止画をつなげる。そういった光景を擬似的に作り出し、読者があたかも自分の目の前でマンガのシーンが繰り広げているような臨場感を出しているのだと思う。

冒頭で出てきた萌えキャラAIのハロロのデザインが今風にまともだったときは「長谷川先生が今風だって…?!」と一抹の不安を覚えたけど、後で調べたら別人デザイン&作画で安心したw
白痴系でベルナデット以上のロリキャラもいるし、これならクロボンゴーストも安泰だ。


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