『プリンセッション・オーケストラ』第一印象

2025年6月28日
『プリンセッション・オーケストラ』の1クール目を見終わった時点での感想です。厳密には12話まで見た時点での感想です。

全体の印象

1)15年前のオタク向け深夜アニメのノリ。
2)女児向けとしても、普通のアニメとしても全体的にクオリティ不足。
3)オリジナリティを感じられる部分はシンフォギアのものまね。

・独占的立場にあぐらをかいてるプリキュアの対抗馬になってくれないかなと放送前は期待していたんですが、現状だとライバルどころか同じ土俵にすら立ててない印象です。
プリキュアと比べる以前にアニメ単体としてクオリティが低いところが大問題です。金子彰史さんが”原案”という時点でヤバいかもとは思っていましたが、想像していたよりも低いハードルでつまづいています。

作品の内容

■アニメ単体としてクオリティが低い
・最大の問題点はここです。普通に面白みが少なく、1話辺りの見せ場も内容も貧弱です。
これだけだと漠然としていて伝わらないと思うので次の段落から具体的に触れていきます。

■話が進まない
・プリオケのストーリーはよくある女児向けヒーローものです。有り体に言えばいつものプリキュアです。
「アリスピア」と呼ばれる年頃の少女だけが行ける、マスコット的な動物人間が住んでいる異世界で、歌ったり踊ったりカフェに行ったりして好きに遊べる空間が主な舞台です。まぁ簡単に言えばプリパラですね。
そこに最近人を襲ってエネルギーを奪って無気力にする怪物が現れ出し、友達を襲われた主人公が突然「歌の力、ミューチカラを操る”プリンセス”」の力に目覚めて戦えるようになり、同じように覚醒した仲間二人とアリスピアを守るために敵と戦うのがメインストーリーです。

・基本的にはメイン回以外ではストーリーが進みません。
プリキュアや戦隊に慣れている人にとっては想像しやすい光景だと思いますが、メイン回でない普通の回では前半はどうでもいいエピソードやゲストの話をしつつ、少しだけメインストーリーに関わる話を入れて、後半はノルマ的に怪人に襲われた被害者を出し、駆けつけた主人公たちが怪人を倒して被害者を救助して終わりです。

■古臭いオタク向けのノリが強い
・じゃあ普段は何をして時間を持たせるかというと、オタクなノリの会話です。
普段は真面目でお硬いレッドがお菓子の話になると顔色を変えて
「マカロン?! マカロン… マカロン(どんどん表情が崩れていく)」→「そんなに食べたいんですね…」とツッコまれる。
とか、

ボケ役のイエローが突然グラサンをかけて隣に「SOUND ONLY」と書かれた黒い板を並べて「これから会議を始める…」みたいに厳かな感じを出して、他の二人に「その板とサングラスは何なの…?」とツッコまれる。
*念の為に解説しておくとプリオケとは全く関係ない『エヴァンゲリオン』という昔のアニメのパロディです。

など、
昔のオタク向け美少女ラノベ、もっと歴史を辿るとギャルゲー寄りのエロゲーみたいな作品であったノリが基本な感じでやっています。
私はほとんど見たことないので判別がつきませんが、シリーズ構成の逢空万太さんの代表作『這いよれ! ニャル子さん』もそんな感じのノリだったそうです。
キャラデザとスタッフを見た時点で女児向けというよりオタク向けっぽいなとは思いましたけど、ここまでオタク色が強いとは思っていませんでした。

・女児にはウケないと決まったわけではない事項なので結論は下し難いですが、個人的には結構きついです。オタクですけど昔からこういうノリは好きじゃないので…
果たして今どきのオタクにウケるのかも疑問ですし、女児に通じるのかはもっと謎です。

■メインストーリーは敵の手のひらの上
・今のところはメインストーリーはいくら敵を退散させても「またプリンセスの力が育ったようだ。全ては我らが主のために」と敵の手のひらの上で転がされてる感じが有り有りで不毛感が強いです。
そんな雰囲気がするとかじゃなく、主人公には知りようのない敵会議でもろにそういう話を何度もしてるのでほぼ確定事項です。敵幹部が4人いて1人戦うごとに誰かが戦う度にそういう会話をしてるので疑う余地がほとんどありません。

・金子さんの手掛けたゲーム、『ワイルドアームズ』シリーズやアニメの『シンフォギア』シリーズでもこの手の主人公たちの活躍も敵には織り込み済みで利用される展開がありましたけど、基本的にはウケない展開だと思います。
ゲームならストーリーの間にダンジョン攻略などプレイが挟まるし、「ストーリーが大きく動く前後=乗り物が増えて行ける場所が増えたり、新しい仲間が入ったりしてプレイが広がる」ことが多く、ストーリーの悪い印象も薄くできますが受動的なアニメではそうはいきません。
全体的に盛り上がりに欠けていて、他に目を引くところが少ないプリオケでは尚更悪影響が強まります。

■アクションがあまり動かない
・1話ごとの見せ場になるはずのアクションは今のところ普通にいまいちです。
やることはプリキュアとも大差ない普通のパンチやキック中心の格闘戦です。必殺技を除くとバリアや火を出せるなどプリンセスごとの特殊能力もなく、敵も手足が短めでアクション映えせず、週替り怪人もなく新種が出ない限りは既存の敵と戦うだけで全体的に単調です。

・おまけに放送前から危惧していたとおり、作画力も演出も低調でした。
元請けの会社自体が「女児アニメ未経験。今までに4クールものを担当したことがない。それどころかオリジナル作品をやること自体も初めて」という経歴なのでダメそうだとは予想していましたが早々に力尽きました。アニメーションとしてはわりと普通に終わってます。1クール目から崩さないだけで精一杯って感じです。

■シンフォギアの二番煎じ
・作品の特徴が出ている部分は基本的にシンフォギアの二番煎じなのでオリジナリティも低めです。
ストーリー展開や台詞回しも、歌いながら戦うところも全部シンフォギアのものまねです。基本的に劣化版でしかないので良さもあまり出せていません。

・肝心の歌は声優の実力差が厳しいです。
シンフォギアはベテランと元々人気で主役を何本も張ってきた若手が中心だったので歌唱もアドリブ発声もやってのけられましたが、プリオケの主役陣はネームド役をほとんどやったことがないようなド新人なので荷が重すぎました。普通に普通のことをこなせない新人にテクニックと独創性が必要な役をやらせて上手くいくはずがありません。
放送前は「勝機があるとしたら歌いながらのバトルかなぁ」と思っていたのですが、現状だと普通に挿入歌を流すのと大差なくて全然勝ち目を感じません。

・ストーリー面では引き伸ばしと時間の持て余しが見るからに問題になっています。
シンフォギアは1クールでしたがプリオケは4クールです。話数が全く違うのに似たような展開をやろうとすればダラダラとメインストーリーを引き伸ばし、合間の持て余した時間にやることがなくなるのは必然です。それじゃ面白くないのも当然です。全然調整できてません。

■充分なクオリティがない”王道”は「平凡」でしかない
・メイン回のセリフ回しや主人公たちの思考の描き方など良い部分も無くはないんですが、普段の内容のない部分に薄められてしまうのと全体的なクオリティ不足で勢いが生じない点が逆風になっています。

・節目の12話で同じ回の前半でボロ負けした幹部相手に再戦し、負けたときと同じ必殺技の真っ向勝負を仕掛けて
敵幹部「さっき全力を尽くしてボロ負けしたのに同じような戦い方をどうやって勝つつもりなんだ?」と煽られても、
主人公「私たちの力の源が自分たちの心から湧き出る力なら、負けた相手だろうが被害者を救うために戦うと決意してここにいる私たちがさっきまでと同じなわけないだろうが!」
とパワーのゴリ押しで勝つところなんかは金子さんらしい理屈とケレン味があったと思うんですが、前半から延々とバンク映像を繰り返して何の迫力も感じないバトルといつもと違いを感じない歌唱力、前半では敵幹部も歌を歌って対抗していたのに後半では劣勢になっても歌わない露骨な手加減とセットでは盛り上がれませんでした。どこまでもアニメとしての出来栄えが足を引っ張りまくっています。

■女児アニメとしてはツボを外している
・これといった独自性や強みを出せないどころか、基礎的なポイントも外している印象が強いです。

・個人的にはバンク省略がだいぶ不思議です。
女児向けアニメと言えば変身シーンや必殺技などバンク映像が定番です。プリキュアに限らず、アイドルものやファンシーなマスコット中心の作品でも魔法発動など何かしらのバンクがあります。
プリオケの場合はあるにはあるんですけど、基本的に短縮されています。変身も必殺技も初回以降は短縮バージョンばかりです。変身に至っては3人揃ってからは画面三分割で同時並行で短縮したバンク映像を垂れ流すことが定番化しています。
大人としてもう見飽きたと早送りすることもあるくらいなので問題ありませんが、子供もそう思ってるかは疑問があります。定番化するからには相応の必然性があるんじゃないかと不安に感じる気持ちの方が強いです。実際、見ている子供が一緒に歌う踊るなどそういう流れを意識した作品も女児向けでは珍しくないと思いますし。

・短縮してもやることが無い点もそこそこ不思議なところです。
バンク映像という視点で見ても、まともにアクションさせる余力のない制作体制ならバンク映像は短縮しないで時間を稼いだ方が制作体制にとってもメリットだと思うんですけどねぇ…

■玩具が見当たらない
・販売面で不思議なところは商品数の少なさです。
変身アイテム、必殺技用のロッド、プリンセスのぬいぐるみとコスプレ用コスチューム。
後はマスコット枠のウサギ人、ナビーユのおしゃべりぬいぐるみ、ナビーユの顔を模したポーチとキーホルダー。
それにいろんなキャラのイラストやフレームを好きな組み合わせにできるキーホルダーメーカーで7種類のみです。

・オリジナリティが無い上に種類まで少なくてメーカーの本気度が見当たりません。
作中では「変身アイテムにはめると一時的にパワーアップする小物」が登場しているのですが、玩具には今のところ有りません。完全な門外漢の参入ならともかく天下のタカラトミーでこれは予想外です。
アニメとしても玩具としても用意周到どころか舐めてるのかと思うような態度にがっかりしています。こんなので勝てると思ってるんですか…


個人的な印象、気になったところ

■設定語りが無駄に多く感じる
・アリスピアの話やプリンセスの歴史、メイン回の大半を占める敵関連の疑問など設定語りがやたらに多いことを私は不思議に感じました。
特に主人公の人物像も描けていない最序盤から「ここはアリスピア~」みたいな説明を垂れ流しているときには、今そんなことしてる場合なのかなと首を傾げっぱなしでした。
4クールってことで壮大なお話にしたいと意気込んじゃってるのかもしれませんが、今のところはそうする面白みを感じることができていません。

■そこは重要じゃないだろうに…
・個人的な印象を振り返っていくと、脳裏をよぎるのがモブ妖精やゲストキャラの可愛さであることに危機感を感じています。
どれも賑やかし程度で作品にとってはそこは重要じゃない部分のはずです。メインの主人公たちや敵幹部たちよりも、「昆布!」って叫ぶ子安声の昆布の生えた亀や震脚を使いこなすカンフー少女とかの記憶の方が鮮明なようではよろしくありません。作劇の観点から言えば、これはゲストがゲスト単体で完結してしまっていて、メインキャラを膨らませることができていない証拠です。1クール目から「スペースが余ってるから入れてみた」みたいな発想でやっているのでは面白くならないのも当然です、

■ナビーユの扱い
・マスコットのナビーユの扱いは普通に良くないんじゃないかと首を傾げています。
ナビーユは動物のような外見ながら知能も人格も人間と同等以上にあります。
ちゃんと言葉をしゃべれて、怪人を探知するレーダー機能や一般人の誘導、被害者へのごまかしなど戦う力は無くてもできることは精一杯やっていて、「僕たちアリスピアンに戦う力がないばかりに君たちに戦いを背負わせてしまってすまない」と謝罪するほどの責任感や良識を持ちあわせています。

・そんな知的生命体相手なのに主人公たちの扱いは雑です。
「3人で人間世界で遊ぶんだ」と主人公たちが言っているのを聞いて、「僕も一緒に行きたいな…(自分はアリスピアから出れないから無理だけど)」と呟いていたのに主人公たちからはお土産とか遊んでる間にスマホで中継するとか何のフォローも無かったり、
アリスピアで主人公たちがお茶会を楽しんでいるときに、敵のことを調べるために図書館に行っていたナビーユが「遅くなってごめんね!」と悪くないのに謝ってきても返答は「別に待ってないからいいよ」だったり、
「ナビーユ吸い」と称して嫌がるナビーユの腹部に顔を埋めたり、仲間扱いされないどころか人権無視のペット扱いされているように見えることが多くて個人的にはストレスを感じています。
主人公たちの印象も悪くなるし、玩具として単独商品化されてるナビーユを雑に扱うこと自体もどちらも不可解です。なんだってこんなことしてるんでしょう?

■バイオレンス要素
・女児向けのセオリーを知らずタブーも無いせいか、プリキュアと比べるとバイオレンス要素が強めです。攻撃するときもされるときも結構痛そうな描写や死ぬ!怖っ!とゾッとする場面が珍しくありません。
個人的には1話でライブ会場の照明を雑魚敵がプリンセスめがけて投げつけたシーンが印象に残っています。

・外見は人間とほぼ変わらない敵幹部との直接対決だと更にバイオレンス度が増します。
しかも敵幹部はみんな20歳前後の男性バンドマンで強敵扱いであるため絵面のショッキングさが強いです。
プリンセスたちを値踏みして「そんなものか?」とか「なかなかやるじゃないか」とか言っている長髪成人男性がドレスを着飾った少女たちを殴り蹴り、倒れかかったところに追い打ちで両手を組んで背中めがけて鉄槌を振り下ろそうとする場面はリアリティがある情景で、バイオレンス耐性がなくて直視できなくなる視聴者もいたんじゃないかなと思うほどでした。

・扱いによっては個性になりそうですけど、オタク向け路線と同様に「購買層に需要があるのかな?」という点は甚だ疑問なままです。


*プリオケ感想の今後の予定について
・今のところ2,3クール目の感想は書かず、2年目はなく最終回になるであろう4クール目を見終わってから全体の感想を書いて終わりにするつもりでいます。
現状のペースだと「前のクールと大差ない」以上に書くことが無さそうだからです。書くとしたら現状の印象を大きく覆す内容があった場合ですが、望みは薄いと考えています。
どこか明確に大きな問題点があるわけではなく、全体的にクオリティが低く突出した長所も無いので厳しいです。「全てのクオリティを2.5倍に上げれば面白くなる」というのは現実的には不可能とほぼ同義でしょう。


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