演出面から考察する『スマイルプリキュア』 19話「パパ、ありがとう!やよいのたからもの」

2012年6月12日
本当に素晴らしい内容でした。
脚本ではなく演出の力だったと思います。そこでなぜ19話がこんなにも胸に迫るのか演出面から考えてみたいと思います。

■視点と風景=現在と過去
・19話は風景の使い方が巧みでした。
特にやよいの母親の帰宅と思い出の中の父親の帰宅シーンを重ねる手法がすごい。幼いやよいはこんな細かいことまで覚えているはずがありません。これが重なって見えるのは視聴者にとってのみ。本格的な思い出探しに入る前に、当人であるやよいと視聴者の意識の溝を先に埋めています。

・何気なく映っていた日常の光景、それが過去の思い出へとつながっていく感動のシークエンス。ここで注目すべきは風景が全て足元の道や頭上の鳥の巣、大きな池や教会など普遍的な光景であることです。幼いころに見た光景も大きくなってから見ると目線の高さが変わってしまって同じものに感じられないことがあります。しかしこうした足元や頭上の光景というのは変わらない。身近な視覚効果が視聴者をより深く物語の中へといざなっていきます。

・雨の路面から思い出の中の路面へと変わるシーン。ここにも仕掛けがあります。影で映り込んでいる枝には葉がついていません。枯れ木のようです。しかし直後のシーンでは青々とした木々の見える初夏の光景につながっています。死や悲しみを連想させる枯れ枝から生き生きとした新緑への変化。ここでもやよいの心境の変化に先立って視聴者の意識を明るい方向へと導くことで、やよいへの感情移入を密かに助けているのです。冷静に考えると物理的にシーンが飛躍しているようですが、演出ではつながっているのです。

■無意識へと訴えかける描写
・5人が自分の由来を話すときに細かいリアクションが入れてあります。その中でもやよいの表情が印象的です。他の4人が由来を楽しそうに話している間も真剣な眼差しで見つめていて、あかねやなおがおどけてみんなが笑っているときでも真剣なまま。それでも視線が自分に向くと微笑むものの、少しするとまた真面目な顔で耳を傾けだす。表情だけでやよいが深刻に悩んでいることが伝わってきます。
しかしこのときはまだ、何を悩んでいるのかは視聴者にはわかりません。その後に「父親のことを忘れている自分に」悩んでいることを明かすことで、最後にピースが決意が示すこの話の真のテーマへと視聴者の意識を向けさせているのです。

・その手前のシーン「パパの宝物。今ではママの宝物。」と実物と言葉に加えて、先程やよいが思い悩んでいるときに映った風景を重ねることでやよいのママも思い出を共有していることを暗に示しています。優しさは一人にだけ向けられたものではないこと。一つの思いがまた別の人の思いにつながっていくことを示しています。

■光と影
・最後の教会のシーンでは影と光の描き方が印象的です。思い出した瞬間に暗い路面から太陽の日差しに彩られた鮮やかな光景へと変わり大切な思い出だったことを印象付ける。教会に入ると二人の周りは依然明るいものの隅には陰りが見え隠れする。その中で話す父親の後ろには常にその影が映り込む。父親のその後を暗示しているかのようです。しかしその後に映るのは二人で過ごした影一つ無い日常の風景。父を失った悲しみではなく、父からもらったかけがえのない愛を改めて印象付けています。

■ヒーローとしてのキュアピース
・ここまで丁寧にやよいの内面を描きながらも最後にはプリキュアとしての決意につなげている。あくまで本分は忘れない。その姿勢が何より素晴らしい! 自分の思いを大切にするように他人の思いを守り抜く。そのために悪と戦い浄化する。それが愛の戦士プリキュアなのです。
「貴方に愛がないのなら、パパからもらった愛を受け取って!!!」雷を受け止め必殺技を撃つその姿。私にはこのシーンに境宗久さんが御自身が監督を務めたスイートプリキュアに込めた思いがあるように感じられてなりません。
これだけメッセージ性を込めた中でも視聴者を飽きさせないようつなぎもしっかりしています。傘が裏返ってしまうみゆきや水しぶきを使った躍動感のあるアクションシーン。メッセージ性だけでなく楽しませようとする姿勢が本当にすごい。境さんだけでなく東映のプリキュアにかける真剣さが伝わってきます。子供だけでなく親子も楽しめるアニメ。本当に優れた作品は楽しむだけで終わらせない力があるんですね。


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