『仮面ライダーギーツ』 最終回まで見終わって:総合感想

2023年10月7日
 『仮面ライダーギーツ』を最終回まで見終わった時点での全体感想です。劇場版や配信限定などテレビ本編以外のコンテンツは見ていません。
*全体の感想なので必要に応じてネタバレがあります



一言まとめ

ゼロワンからヒューマギアを引いて何も穴埋めしなかったもの
デスゲームとしてもダメ
キャラクターもストーリーもダメダメ

ゼロワンからヒューマギアを引いて何も穴埋めしなかったもの

・過去作視聴済みの人向けに端的な言い方をするとこんな作品です。
作品の中核にして作中屈指のイカれた要素だったヒューマギアが無くなったことでストーリーもキャラも全体的にマイルドになっています。しかし狂った倫理観のキャラや理解し難い世界観など問題は山積みなままです。しかも単に引いただけで足したものが無いため内容はゼロワン以上にスカスカです。キャラクターは終盤になるまで初期設定から進まず、突拍子もない急展開以外では話が進みません。
「話が進まない」「最初からやれ」「内容が薄い」の3拍子が揃った絵に描いたような酷いストーリーと「倫理観がおかしい」「主体性がゼロで何もしない」「言動が豹変しまくって一貫性が無い」魅力皆無のキャラクターで構成された作品、それがギーツです。


デスゲームものとしてもダメ

■モブしか死なないデスゲーム
・仮面ライダーギーツの基本的なフォーマットは”デスゲーム”です。「願いを叶える女神の力」が存在し、死んだ人を生き返らすどころか、死んだという事実そのものを無くすなど現実改変まで好きな願いを叶えられます。
スタッフ側でも作中でもデスゲームと明言していませんが、優勝者は願いを叶えられる代わりに参加者は死ぬこともあるゲーム「デザイアグランプリ」に参加して怪物と戦い、他の参加者よりポイントを稼いで自分の願いを叶えるのが基本的な流れです。直接的なネタ元はドラマの『イカゲーム』でしょう。
仮面ライダーでデスゲームをやると聞けば「レギュラーキャラが死んだらお話が続けられなくない? 死んだキャラ用の強化フォームとか販促どうするの?」といった疑問は誰もが思う疑問でしょう。
その答えは「レギュラーキャラは死なないか、死んでも生き返るから大丈夫」です。参加者側のレギュラーキャラは主人公含めて4人いますがみんな死にません。”運営判断によるリタイア”なんて突然生えてきたご都合主義なルールで助かったことさえありました。たとえ死んでも生き返ります。願いが叶えられる世界なので何でも有りなんです。
もうこの時点でデスゲームとして破綻していますが、元々参加者が誰も自分が死ぬことにも他人が死ぬことにもまるで関心がないので作中では何も問題ありません。
デスゲームっぽいのは見た目だけでデスゲームじゃないのかと考えようにも、ご丁寧に新規ゲーム開始時には毎回のように死ぬ係のモブが追加されて第一ゲームで死んでいきます。いかにもモブって感じの色を変えただけの使いまわしスーツのライダーなので見た瞬間に死ぬとわかるのでオチが見えていて何も面白くありません。

■馬鹿しかいないデスゲーム
・デスゲームと言えば妨害や協力など参加者同士の潰し合いや一人一人のキャラクター性も魅力の一つです。
ギーツにはそれもありません。基本的に馬鹿しかいないからです。早速、例を挙げましょう。
Q:怪人を倒さないとポイントが手に入らないのに普通に倒しても復活してポイントになりません。主人公はどうやってクリアしたでしょうか?
A:倒すとトランプのマークが出てから復活するのを目撃し、ゲームの名前が「神経衰弱ゲーム」だから同じマークのを同時に倒せばいいと理解したから。(他の登場人物は誰も気づけない)

Q:主人公のことが大嫌いなゲームマスターがなりふり構わず主人公を脱落させるために怪人の言語を解読しないと暗号が解けない攻略不可能な謎解きゲームを用意しました。主人公はどうやって解決したでしょう?
A:勝因は「掃除忘れ」。過去の参加者が怪人の言語を解読したメモが落ちていたのであっさり解けた。

頭脳プレイがあった中からマシなのを寄りすぐってもこの有様です。この程度のことで他の参加者は「そんな仕組みだったとは…」とか「さすがチャンピオン」と主人公を褒め称えます。
他のゲームはもっと酷いです。そもそも、だいたいのゲームが「方法はさておきとりあえず怪人を倒せばOK」なものばかりで、しかもたいていの内容は「強い変身アイテムで怪人を倒した」だけでゲームになってません。むしろルールやクリア条件を提示してあるせいで普通のバトルよりも捻りが減って退屈になっています。

■参加者がみんな運営大好きなデスゲーム
・登場人物は基本的に倫理観が狂っています。
デスゲームなら最終的には参加者が反逆して運営を倒して終わることも珍しくありませんが、参加者はみんな運営が大好きなこともギーツの異常性の一つです。
「みんなが幸せになれる世界にしたい」という願いで参加し、目の前で参加者が怪人に殺されたことにショックを受け、やがて願いを「死んだ参加者が全員生き返った世界」に変えたお人好しのはずのキャラでさえも運営に対して反感や敵意を示したことが一度もありません。
「本当に死ぬなんて聞いてない! こんなゲーム止める!」とパニックを起こす参加者もいません。「若返りたい」老人や「痩せて推しと結婚したい」ファンなどどう見てもデスゲームに参加するリスクに見合わない願いの参加者もたくさんいるのになぜかみんな自分が死ぬ間際になっても物分りよく死を受け入れてくれます。
挙句の果てに運営が絡めば自分の願いにすら無頓着にもなります。実は優勝できなかった場合には生き残っても「願いを願う気持ちを失う」ため今までの自分とは真逆の性格になってしまう代償があります。たとえば毒親に反発して家出したがっていたお嬢様の場合には親の言うことを何でも聞く従順な性格に変わっていました。「変身アイテムに触れると記憶が戻る」という仕組みにより本来の自我を取り戻した後でも運営に対して抗議する人は誰一人いませんでした。デスゲームに参加するほど願いにこだわっている人たちが勝手に自分の願いを消されても何一つ文句を言わないとは奇妙過ぎます。他人の命や自分の命を気にしないのは倫理観が無いかそれだけ願いへの執着が強いで片付けられますが、自分の願いを気にかけなくなることはあり得ないでしょう。そんな人がデスゲームに参加するはずがありません。

・2クール目にはデザイアグランプリの真実が明かされました。
「実はデザイアグランプリは未来人を名乗る平行世界人を楽しませるために過去の世界にタイムスリップし、怪人をばらまき現地人と殺し合わせて見せ物にするテレビ番組だった」と参加者に明かされました。
普通なら怒るキャラがいて当然な展開ですが、誰も何一つ言いません。お人好しも無反応なのはもちろん、一緒に参加した友達が他の参加者に謀殺されたことに憤り「全てのライダーをぶっ潰す力」を願いにしていたケンカっぱやいライバルキャラですら無反応でした。
「『世界を救うゲーム』にしてはおかしいと思ってたんだ」とか「ショー? だったら俺がたっぷり楽しませてやるよ。だからお前ら俺の願いを叶えろよ」なんてタイプのキャラもいません。本当に無反応です。「ふ~ん、そうだったんだ」くらいに頷いて終わりです。

・こういう不可思議な運営全肯定は最後まで変わりませんでした。
運営のトップが「グダグダになったから現地人の記憶やゲームの痕跡を全部消して別の時代で新シーズンを始める。お前らの願い?そんなもの知るか」と言い出したときも最終的には「そんなの俺たちが好きなデザイアグランプリじゃねぇ! 悪い運営から俺たちのデザイアグランプリを取り戻す!」と一部の平行世界人が反旗を翻しただけでした。
現代人は相変わらず誰も何も言いません。平行世界人は他人の世界でめちゃくちゃやってるだけで現代人にとって存在するメリットが見当たらないのに「そもそも人の世界を玩具にするな! お前ら全員消えろ!」と反発することは一度もありませんでした。
最終回に至っては「またデザイアグランプリをやろうかって話になってるんだ。今度は人が死なずに人が幸せになるのを応援するゲームをね!」と平行世界人のサブキャラが言い出して平行世界人のヒロインから素晴らしいアイディアだと称賛されていました。


キャラクターもストーリーもダメダメ

■キャラクターも支離滅裂で魅力ゼロ
・ストーリーも設定もダメとなると残るはキャラクターくらいなのですがそれもダメでした。
主要キャラクターでさえも意図しないはまらなさがあって常に違和感がつきとまいます。
主人公は無敗のディフェンディングチャンピオンで決め台詞は「化かされたな」と人を食ったような態度が特徴なのに基本ゴリ押しの脳筋プレイで他の参加者に誰より気を配っていることが多く、むしろ見せ場だけ人を騙そうとしている姿のほうに違和感を感じました。
凡人キャラはスタッフ的には「普通の人」で世界平和を願う善人のはずなんですけど、視聴者目線だと1話の時点から偽善者で脳みそお花畑のわりとクズに見えました。
ライバルキャラは主人公をやたら敵視する主人公に次ぐ実力のNo2、までは普通なのに主人公を敵視する理由が「友達がモブライダーに殺されたときに近くにいただけ」という逆恨みですらない謎理由でなぜか運営も下手人も恨まずに主人公だけ恨み続ける謎思考に困惑しました。
紅一点は毒親に悩み「本当の愛」を求めてデザイアグランプリに参加した、家出企画を生配信しては場所がバレて親に捕まるセレブyoutuberお嬢様。
と、設定レベルから首を傾げるような不自然な設定や存在意義がわからないキャラばかりです。作中ではもっと意味不明で「なんでそうなるの?」「この状況で無反応?!」と戸惑う出来事ばかりでした。

■ストーリーはもっとどうしようもない
・ストーリーは壊滅的に薄いです。お話の大筋は主人公の願い「幼い頃に生き別れた母親に会いたい」だけです。
主人公は実は死んでは転生し生まれ変わっても記憶を維持し続ける転生者で、2千年間生き別れた本当の母親をずっと探してきましたが見つからなかったのが1話が始まる前の状態です。
母親は運営によって願いを叶える装置に変えられてしまってもう意識もないという事実を知ったのが中盤。
主人公が母親と再会できたのが38話でこれがメインストーリーの実質最終回でした。なんで今まで会えなかったのが会えたかと言うと、「実は主人公にも母親譲りの願いを叶える力があって力が突然目覚めたから」です。目覚めたきっかけは特にありません。1話以前に目覚めていたらその時点で話は終わってました。

・メインストーリーはこれだけです。だからといって母親にまつわる謎を少しずつ解いていくミステリーでも何でもありません。
途中の展開は特に何もありません。グランプリはほぼ毎回主人公が優勝するだけで事態は全然変わりません。優勝して願いを叶えても、そもそも主人公の本当の願いは叶えてもらえない願いなので優勝する意味はありません。主人公も勘づいているので「自分が大スター『スターオブザスターズオブザスターズ』になった世界」や「運営と家族になった世界」などなんか意味があったらいいな程度の願いしか願いません。
事態の進展も「事情を知る悪役が聞いてもいないのに勝手に話してくれた」「主人公と仲良くなった下っ端スタッフが資料室で調べたら全部書いてあった」などご都合主義以下の展開ばかりです。
基本的に状況に流されて運営が出したゲームなど目の前の事態に対処してるだけか、ストーリーとは関係ないキャラの話をやっているだけです。最終的には世界作り直しで夢オチみたいな終わり方になるのでキャラの話もほぼ意味がありません。
話が進んでも「悪いのは運営だ!」と最初からわかりきってる結論が出てくるだけなのでとても退屈でした。

・38話から最終回までは敵も味方もグダグダするだけです。
味方:世界を作り変える力を手に入れたがコントロールする方法がわからず使えない主人公と主人公ならどうにかしてくれるだろう=自分からは特に動かない信者たち。
敵:主人公に負けた残党。残党なので面子は代わり映えしないし言うことも代わり映えしないし結局また負ける。
最後は主人公が死んで神様になって終了です。マジでラスボス相手に「神様に勝てるわけないだろ」と言ってボコって終わりです。その前にラスボス自ら「お前は肉体にとらわれているから神の力を自由に使えないんだ!」とか言っていたのに自分から主人公を殺して「やったー!」って喜んでいたので本当に意味不明です。じゃあ殺しちゃダメじゃん。
普通なら「確かに神の力を使えば勝てる。でもそうしたら主人公の夢が叶わなくなる。もっと人間として生きたいのに…」なんてお手軽な解決方法に反する別の軸が用意されているものですが何の葛藤もないので困ります。

アクション

■全然活かされないギミック
・上半身と下半身で分かれたアーマー。回転して上下のアーマーを入れ替える『リボルブオン』。及び上半身と下半身どちらに着けてもいいデザイン。
他にもアイテムは個人認証はなく手にすれば誰でも使用可能など設定はいろいろありましたけどほとんど使われませんでした。どれも登場して3,4話後には有名無実化していました。
アーマーは最序盤以降はほぼキャラ専用装備化していましたし、リボルブオンに至っては1度も使わないフォームがいくつもありましたし、主人公の中盤以降の強化フォームに至っては「リブルブオンすると全身が変形してキツネ形になります!」などと全然関係ないギミックにされていました。
ギミックをまともに使っていたのは坂本監督くらいでした。マグナムの腕や足の格納銃やコマンドの敵を切らないとバックルを着けられない仕様など活躍や逆転に活かしやすいギミックはいくつもあったと思うんですが…

・武器バックルの存在感の無さは特に異常でした。汎用アーマーにキャラの顔マークを貼り変えて武器を持たせるだけで亜種フォームが1個出来上がりのお手軽デザインとして作ったはずなのに数えるほどしか使われませんでした。
上半身と下半身に分かれているのだから片方はお決まりの販促用のキャラ専用フォームでも空いた側に武器を着けるだけで簡単にアクションやシチュエーションに変化をつけられたはずです。これではいったい何のために存在したのかわかりません。

・要素自体は良かったです。
アイテムの共用化や組み換え自体はフィギュアのプレイバリューが増しますし、上半身と下半身で専用のアーマーにするよりも単純に2倍の組み合わせにもなります。これは映像やアクションの面でもバリエーションが増えて有益だったでしょう。
ただ、一つ致命的だったのはスーツを作る予算も時間もなかったということです。机上の空論にしかなりませんでした。アクションもそもそも一人のキャラ専用としても動きの個性が薄い状態で2人目3人目に使わせたところで差別化できるはずがありませんでした。

・コンセプトの実装も貧弱でした。
上半身と下半身共用と言っても実際は上半身用が大前提でした。大半のデザインは下半身用にリボルブオンするとアーマーの半分くらいは無に消え、残るのは膝当てと素体状態も真っ黒スーツになったみすぼらしい上半身だけでした。
武装も基本的には手持ち武器のみでアーマーには兵装はほとんど無く、手持ち武装を足に付けるのは当然不可能なので武器もどこかに消え、下半身にリボルブオンしてもひたすらキックするだけのフォームが大半でした。どいつもこいつもキックしかしないせいで没個性化し、足技主体のライダーがいる作品のほうがよほど個性的に見える有様でした。
「キックと言えばライダーキックがあるだろ」と言いたいところですがそれもありません。ライダーキックは下半身にリボルブオンしたときのみ使うなんてことはなく、上半身だけのときにライダーキックすることのほうが多かったです。下半身だけだと貧相でかっこ悪いですからね。

■倒す相手がいない強化フォーム
・強化フォームは倒す相手がいないことが致命的でした。
ストーリーの説明で触れたとおり、運営は敵だけど主人公たちは運営大好きなのでいわゆる敵幹部のようなぶっ倒していい相手がいませんでした。
運営のゲームマスターが敵になるんですけど倒すとゲームの進行役がいなくなるのですぐに次のキャラ(だいたい一つ上の役職)が出てきて次のゲームが始まるだけで事態が進展した感じが全くせず倒した爽快感がありませんでした。
話のペースと強化フォームが出るペースは足並みがもっと合わないのでつい1,2話前にボスを倒すのに使ったフォームを雑魚相手に使うか噛ませ犬になることが多く、「出しただけ」でおよそ販促とは呼べないものが多かったです。

・最強フォームは一番悲惨でした。まともな戦果がほぼゼロです。
登場時は願いを叶えるチート能力全開だったのでフォームの力じゃなくてチートパワーのおかげにしか見えず、そこから後は他のキャラのお話がメインだったため雑魚をいじめたり手の空いてる悪役のアリバイ作りに小競り合いをするだけで最強フォームを使う必要性を感じない戦いばかりでした。最終決戦ではラスボスのチートパワーに負けるけど負けるのも最初から予定通りで死んで神様になった主人公がまたチートパワー全開で圧倒して終わりでした。これじゃ最初から最強フォームの販促じゃなくてチートパワーの販促です。

・最近”お馴染み”の終盤で出しただけプレバン/Vシネ用フォームも3体もあってうんざりしました。戦う相手がいないので初戦は勝敗が重要でない小競り合いで後はラスボスの噛ませ犬だけでした。
スタッフは本当にやる気がないみたいでラスボスのスーツはなんと中ボスで出てきたライダーを少しアレンジしただけでした。もちろんライダーなのでラスボスもプレバンで売ります。

・怪人に至ってはなんと全部で「雑魚+6種類」だけでした。
これで終盤以外はライダー同士のバトルが中心じゃないので大変です。序盤に至ってはほぼ1クールひたすら雑魚と戦うだけでした。おかげで味方が全然強く見えません。
種類が少ないからライダーどころか中ボスをリサイクルした再生怪人ですら倒しきれずに逃げられる進展ゼロのバトルが多く、視聴者的にもバトルはどうでもいい場面になりがちでした。そもそも直近の目標である優勝が勝っても何も変わらない茶番ですからね。

■アクション自体はエフェクト主体
・アクションは例年どおりでした。CGやエフェクト、スローモーションなど加工が主体で生身のアクションは少なめでした。
個人的には好みじゃありません。映像加工を主体にするともう生身でやる意味がないと思います。フルCGやアニメにしたほうが早いと思います。

全体感想

■英寿
・俺様天才系かと思ったらわりと親切で、頭脳プレイがしょぼすぎるせいで頭が良いようにも見えず、販促の都合で強いアイテムで殴るだけの脳筋に見えることのほうが多かったです。
この妙なギャップは序盤の走り出しの失敗の主な要因の一つだと思います。「主人公は強くてかっこいいからとりあえず主人公に注目してればいいか」という見方ができるかどうかはカジュアル層向けには重要なことだと思います。「何なのこいつ?」と違和感を抱くとと目立つだけむしろマイナスです。
設定レベルでも「デスゲームであることすら知らないド素人の新規参加者とゲーム慣れしてるベテランたち」という温度差があるので英寿にはゲームの指標として見れる安定感が強く求められていたと思います。

・設定と実装の取り合わせが悪いのかと思えばそうでもないところがまた奇妙でした。
種明かしをしてみれば天才でも何でも無く2千年間死んでは転生を繰り返してきていて、才能ではなく経験と努力の積み重ねで勝つループ系作品の凡人主人公のようなタイプでした。真実が明らかになれば言動との不一致はむしろ納得がいきました。凡人ならそりゃアドリブには弱いし、事態に流されがちなのも頷けます。
じゃあ、最初からそういうキャラだったのかというとそうでもないから困ります。根本的に「化かされたな」とか「ここからがハイライトだ!」とか言うキャラじゃないのでなんでそんなこと言ってたのか最後まで見た後でも理解に苦しみます。「ずっと前からオーディエンスがいることに気づいていた」なんて設定ならわかりますけどそんな様子は1ミリもありませんでした。「オーディエンスという設定を後で出すつもりだったからこんな台詞を言わせることにした」という以上の理由が見当たりません。
意味があるようで無いことばかりで行動は行きあたりばったりで、ある意味では「ギーツの主人公」にふさわしいキャラだと思います。

■景和
・ギーツの狂った倫理観を象徴するようなキャラでした。
1話から「こいつ脳みそお花畑だし性根がわりとクズじゃね?」と思う言動しかなくてスタッフの提唱する善人像とのギャップに苦しみました。
マジでスタッフにとってはこれが善人なのかなと考えようにも結局は自己中のクズだったと馬脚を現すことになって意味がわかりませんでした。
人を殺して作中基準ですらどう見てもクズになってもなおスタッフからの「普通の人」扱いが無くならなかったので本当にスタッフはあれが普通だと思っていたんでしょうね。パワハラ企業は怖いなと思いました。

■道長
・何でも噛み付く狂犬キャラのようでしたが最終的には一番真っ当な人間になりました。
序盤は逆恨みにすらならないのになぜか英寿を敵視し続けていて困惑しました。「英寿は友達の死に関係ないとはわかっているがもう恨む相手もいないので英寿を憎むしかなかった」みたいな屈折した気持ちがあるのかなと考えたりしましたが特に何もありませんでした。頭がおかしいだけなので考えるだけ無駄だったようです。
ジャマトグランプリの辺りは後から考えても意味不明でした。運営を敵視するのは正しいと思いますが、ベロバは運営と癒着しているしベロバみたいなオーディエンスがいるからグランプリはこんなことになっているのでベロバに加担する意義がわかりません。「一般人に被害が出ても最終的には生き返るから問題ない」みたいな大局的見地に至ったのかと思ったらそんなこともなく、終盤では不可抗力で殺した相手にまで延々と謝っていてどういうメンタリティをしているのかますます不思議になりました。
最終回のエピローグに至ってはなぜか以前よりも社交性を身につけていて意味がわかりませんでした。道長は昔から不良で他人とぶつかってばかりだったから心を入れ替えようが社交性は低いはずだと思うんですが… 英寿が気を利かせて生きやすいように人格改変したのでしょうか?
要素だけで言えば「特別と普通」という対立軸で「実は道長は普通になりたいと思っていた」という流れを用意しておけばラストも全然問題なかったし、生まれながらに特別な存在の英寿、凡人だがヒーローになりたい景和、お嬢様として楽しく生きてる祢音などとも対比として成立したと思います。

■祢音
・私は全く興味が湧きませんでした。マスコット系の可愛いと言われることだけが存在意義のヒロインポジションだったので可愛いと思えなかったことは致命的でした。根本的に合わなかったのであまり語れることがありません。
家出娘とアイドル系youtuber、本当の愛とたくさんのファン、目的のために創られた人造人間と人気アイドル、軽いノリとデスゲームなど設定時点から正面衝突してるように感じる要素が多すぎたと思います。どれもこれも全くついていけませんでした。

・否定的とか言う以前に「わからない」としか言いようのない存在でした。物語における存在意義からわかりませんでした。
祢音の存在を消して展開で困ることが思いつきません。メインは道長と景和、ツムリで概ね穴埋め可能だと思いますし、日常パートの話し相手なら景和姉かツムリで済む気がしますし、そっちのほうが各キャラの印象や掘り下げが進んで良かった気すらします。

■ベロバとケケラ
・ベロバとケケラはサブキャラの中では比較的目立っていたほうでした。悪役として役割があった分、しょせんスエルの下っ端でしかないゲームマスター勢よりは自主性が感じられました。
しかし時間を割いた割には悪行以上の印象は薄いです。何がしたくて何を得たのかよくわからないままです。口で言ってたことが全てなのでしょうか。
悪役としての末路も理解し難かったです。死ぬときまでかなり満足気な様子でした。これじゃ願いが叶っちゃってませんか? 散々くだらない目的のために人を殺した悪人なのに作中で誰よりも満たされた人生を送ることに違和感がありました。

・キャラクターとしてはやれることはもっとあったと思います。
平行世界人「デザインされているがゆえに生まれたときから努力や苦労は無縁で、寿命まで決まっているので将来に対する不安なども無い。しかしそれゆえに退屈や閉塞感を感じている」
現代人「不完全で苦痛と苦悩に満ちているが夢と希望にも溢れている」
という対比関係にあるはずなんですがそういうところは全然活かされた気がしません。

・ベロバなら
「道長を応援していたのは、圧倒的チャンピオンである英寿に勝ち目のない挑戦を諦めずに愚直に続ける姿に共感と羨望を感じていたから。最後に負けたのに満足気だったのは絶対に勝てないと思っていた相手(ベロバ)に道長が自分で掴んだ力(ジャマ神バッファ)で打ち勝ったから」
なんて話にすればまとまりが良かったし、生まれながらに絶対に変われないというベロバの絶望と他人を踏みにじることでしか自分の存在意義を感じられない哀れさにも共感の余地ができたと思います。副産物として精神的には変われたジーンや本人は特に変わっていないが祢音の変化に役に立てたキューンなど平行世界人の中における対比関係にも作用できたでしょう。

・ケケラなら
「混沌を好むベロバに対してケケラは予定調和を好み、自分のイメージどおりのヒーローにできる駒として景和に目をつけた。最後は想像していた未来と異なる番狂わせに怒りながらも、自分が育てた景和が自分の想像を超えたことへの喜びと自分にだって決められた未来以外を作ることができたという想像したこともない達成感を抱きながら死んでいった」
なんて話にすれば英寿の否定した「幸せの総量が決まっているゼロサム世界=予定調和」の否定の裏打ちにも使えたと思います。

・祢音だって素性を活かせば現代人と平行世界人の中間的存在としての意義を持たせられたでしょう。
一つ一つの要素について考えるほどにスタッフがろくに工夫してないという停滞感を強く感じました。ストーリーでは希望や無限の可能性みたいな話を前面に押し出しているのに実態は停滞感と無気力で溢れているところもギーツに感じるどうしようもなさの主因の一つの気がします。

■その他
・ツムリですらその他に入ってしまうのがギーツクオリティですね。たぶんヒロインだと思うんですけど空気過ぎました。
女神にされるのも道長のほうがたぶん視聴者的には盛り上がったんじゃないかと思うくらいです。最後まで意思が感じられず、ジーンの新DGPに賛同する意味すらわかりませんでした。

・他は空気でした。
パンクジャックとナッジスパロウは視聴者人気で再登場したような感じでしたが、やることが結局狂言回しで主人公たちに都合の良い展開を持ってくるだけでした。立場を変えただけでやってることはゲームマスターたちと大差ありません。
パンクジャックなんて後半は英寿母の謎を調べたりなぜかジットに殴りかかったりツムリを救出したりと別人みたいな働きが多すぎて違和感が強かったです。

・スエルは何の人格も感じませんでした。ラスボスという印象すらありません。
自分の世界に否定的な人物が多い平行世界人のボスならば普通は管理社会に肯定的で持論の一つも打つものですが趣旨すら意味不明な話しかしませんでした。
「幸せの総量が決まっているなら強者が独占するのは当然。弱者が幸せになれないのは当たり前」だけならまだデスゲーム主催者らしい傲慢さで片付けられるのですが、平行世界人のボスとしては全然意味がわかりません。
こんなこと言ってるけど立場としてテレビ会社の社員/社長?で視聴者に媚びる立場なんですよね。オーディエンスの存在と全然噛み合ってません。これだと「自分は手を汚さず傍観者として他人を消費するオーディエンスこそが真の悪」みたいな話にならないと変ですが明らかにそんな話ではありません。むしろ「悪いのは一部の悪質なオーディエンスだけです!」と作中で断言していました。
平行世界人の設定とも合っていません。この設定なら富めるものがいる一方、搾取するためだけに創られた存在もいないと釣り合いません。
ジャマトがそのつもりなのかもしれませんが、それなら運営の雑用や給仕を行うジャマトも出して戦闘以外の使われ方も強調しないと伝わりませんし、ナッジスパロウなどジャマト人間の存在もノイズになるので出すべきではなかったと思います。

ギーツの特色=つまらなさ

・映像作品としてのギーツって何なんだろう…といろいろ考えてみた結果、「つまらないこと」がギーツの特色だという結論に至りました。というかそれ以外に候補が浮かびませんでした。様々な要素からつまらなさを取り除くと何も残りませんでした。
キャラクターでは馬鹿なキャラを取り除くと残るのがせいぜい馬鹿というか意固地な道長と悪役くらいです。
デスゲームを取り除くと「怪人を操る黒幕から世界を救う」というありきたりで漠然としたヒーローものしか残りません。願いを叶えるためのデスゲームものだけに登場人物はみんな世界を救うことに関心が薄いのでご褒美で釣らないとお話になりません。
「人が死なない退屈なデスゲームを馬鹿なキャラが延々と繰り返す」という図式以外にギーツらしいと言える部分が見当たりませんでした。面白くしようとすると大半の設定やストーリーを変えざるを得ず、変えるとと全然ギーツらしくない内容になってしまうので改善案も何も出しようがなかったです。改善するなら企画からやり直したほうが早いです。

・こうなった原因を考えてみても「考えが浅い or 途中で放り投げた」というこれまたありきたりな結論になりました。
代表例は「スターオブザスターズオブザスターズ」だと思います。「なんか造語を作ってみたが大スターという以上の意味は元からなく、面白くも何ともなくわかりづらいだけで後で活かされることもない肩透かしでしかない単語を出しちゃうセンスはもうどうしようもありません。
普通だったら「作中で特別な意味もないのに馴染みのない造語を出すな!」と怒られて終わりでしょう。ドラマ的にも長いし間抜けな響きで2回目以降はスターと言い出した時点で「はいはい、あれね」と視聴者が聞き流しモードに入って萎えさせるので最悪だと思います。
他にも人が死なないデスゲームや特に意味のない人狼ごっこ、椅子じゃなくてドライバーを取り合う”椅子取りゲーム”などダメなセンスの例には事欠きません。
構成要素や初期設定からして意味不明なものだらけなので何をどうすれば良かったかを考えること自体がナンセンスだという結論に至りました。ゴミはゴミです。



コメント

7 件のコメント :

  1. マルゲリータ2023年10月7日 23:37

    総合感想、お疲れ様です。
    今回もまた時間がかかりましたね、虚無を文章で表現するのは大変ですもんね。

    ギーツは、どれも低レベルな令和ライダーの中では、不快要素が少ないだけ一番マシな作品、というのが私個人の評価ですね。それ故に虚無なのですが…

    読んでいて思いましたが、マジで虚無ですね。私からは、以上です。
    これからも、特撮の感想よろしくお願いします。

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    1. マルゲリータさん、こんにちは。
      書くことないなぁと思いながら書き始めましたがやっぱり書くことがありませんでした。「ダメなデスゲーム」という以上の内容がまるで無いのであらすじと説明以外に書くことがありませんでした。
      個人的には最初から心停止状態の全くの平面よりも凸凹のほうがマシです。

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  2. 純粋に疑問なのですが、主さんはなぜライダー・戦隊の感想を書き続けているのでしょうか。
    こんなにも否定的な意見しか出てこないようなものを見続けるのは苦痛ではないですか?
    このサイトの否定ではありません。私も最近の作品を面白いとは思えないので、毎週更新を楽しみにしております。
    (ゴースト放送終了後くらいからこのサイトを見ていますが、毎週の記事や全体感想を読むたびによくここまで細かく見れるものだなあと感心しております。)
    ご意見お聞かせください。

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    1. 修練の一環なので苦痛があるのは別段問題になりません。楽をしていては見えないものもあるので。

      私が書く理由は主に
      1)やる気がなかろうと定期的に書いて文章力を上げるため。
      2)面白いと思ったものではなく、あえて書くことに困りそうなものを選ぶことでより深く一つ一つのことを考える力を身につけるため。
      3)シリーズの変遷を主観的に記録するため。
      4)それを読んで楽しむ人がいるから。
      といったところですね。
      本来は「ライダーや戦隊ならアクションがあるから毎回一つは書くことがあるだろう」という目論見から始まったのですが最近はアクションも右肩下がりなのでそこは困っていますが。

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  3. こんにちは。私は「仮面ライダーギーツ」は私が今まで見た三大特撮作品の中で一番最低な作品だと感じました。あまりの駄作っぷりに体調不良を起こし、途中(33話)で見るのを止めてしまったくらいです。その後、ガッチャードの放送開始後に「良作だった」という声を耳にし、視聴を再開したのですが、サイト主さんと同じような感想出ず、視聴したことを後悔しました。正直、、この作品を視聴していた時間を返して欲しいです。

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    1. 匿名さん、こんにちは。

      それは気の毒な結果でしたね。
      自分の感性を一番知っているのは自分なので、他人の言うことよりも自分が感じたことを重視するほうが良い結果が得られると思います。

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    2. 返信ありがとうございます。ギーツを見る以前は、私の中で一番の駄作は「ウルトラ6兄弟vs怪獣軍団」思っていました。この作品もギーツのように意味不明な転回が多かったことが問題だったのですが、まだギーツよりもヒーロー要素の多い作品である部分や尺も映画くらいだったことから、まだこの作品の方がマシかなって思いました。

      削除

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