映画 『パシフィックリム』:感想

2014年6月5日

【怪獣とロボ】

■怪獣
・見た瞬間、「怪獣だ!」と思えるのは良い怪獣映画だと思う。
元から充分強い敵に更に羽が生えたときは震えた。いったいどうすりゃこんなのに勝てるんだと思う存在感。
この人間の事情なんて気にしてくれない圧倒的な感じこそが怪獣の真髄だと思う。
この辺りの感覚は全然違うかと思ってたので心底驚いた。

・デザインも生物らしさを意識してあるのが素晴らしい。
作品で初めて本格的に戦う相手、レザーバッグは後頭部に生えたイソギンチャク状の触角が印象的に見えるよう撮影されてる。
あのウネウネ感がすごく良かった。あれを見たときCGっぽさが消えて、いかにも怪獣という感じがした。
この辺りは古典的なきぐるみ怪獣っぽい作りだけど、暗闇に映えるよう身体に蛍光色のラインを入れてあったり独自の工夫もしてあって、モノマネじゃなくしっかりものにしている感じがする。

・個人的に怪獣のデザインが一番好きなのは、日本を襲った怪獣・オニババ。
蟹をベースにコーカサスオオカブトの3本角の頭部を合わせたようなデザインで、正統派怪獣という感じがする。
斬新なデザインだけじゃなく、こういうクラシックなのも作れるのかと作品の奥深さを感じた。

■ロボ
・怪獣映画としては大満足だったけど、ロボット映画としてももちろん大満足。
生物的な怪獣と各部品が小刻みに動き続けるメカニカルなロボの対比が素晴らしい。
怪獣vs怪獣でも、ロボvsロボでもこうはいかない。この組み合わせならではの映像美がある。

・何より素晴らしかったのは、イェーガーはなぜ人型なのかという一番嘘臭い部分に説得力を与えている点。
怪獣にパワーで劣る分、投げ技や細かいギミックを活用しながら戦っていて、力押しでは勝てないからこの形にしたんだと思える。
新型にはクリムゾン・タイフーンみたいな3本腕+身体を一回転できるゲテモノ系の機体もあるのもポイント。
「この世界では人型が当たり前だから」という都合のいい世界観にしなかったのは英断だと思う。
あくまで人型のほうが動かしやすいだけで、動かせないわけじゃない。
直接描かれなくても、可能性の広がりを感じさせるだけでも作品はもっとおもしろくなると思う。


【ストーリー】

■初めの世界観説明
・映画が始まってすぐに映る最初のシーンがストーリー上一番すごい。
KAIJU(日本語)怪獣
イェーガー(ドイツ語)狩人

と文字列だけが真っ暗な画面に浮かぶ非常にシンプルな映像。それなのに物語上果たしている役割がとてつもない。
「この世界には怪獣がいます。そしてイェーガーという対になる存在がいます」
「日本語とドイツ語と英語がごちゃ混ぜ=視聴者が戸惑うつっこみどころを一気に出す」
普通の映画だったらナレーションや主人公を使って10分くらいかけるところを一瞬で終わらせる鮮やかなお手並み。
ストーリーはおまけといわれるけど、世界観の説明はすごく上手いと思う。

■エウレカの親父さんと司令官の最後の会話
・字幕では「ペントコスト」と周りと同じ名字での呼び方だったけど、音声では「スタッカー」と名前のほうで呼んでいた。
呼び方の違いで関係性を示せるのは英語の強みだね。
この2人に限らずパシリムはロシアの2人とかストーリーらしいストーリーが描かれていないキャラのほうが魅力的に見える。

■番外編
・それと本編の終了後の意外な展開がおもしろかった。
「続編の伏線でも出てくると思った?」と製作者にからかわれてるようでまんまとしてやられた。
適度に盛り上がりつつ気が抜けて、最後を締めるには良い演出だったと思う。



【引っかかった点】



■ストーリー(主にマコ周り)
・マコが悪いわけじゃないんだけど、物語のかったるいところを全部押し付けられてしまっていて見ててもやもやすることがお多かった。
初めて登場したときの日本語なんてまさにそう。
相手の知らない言葉を使って目の前で軽い悪口を言うなんて侮辱的な行動をマコがとるだろうか?
あまり時間をかけずに日本語の設定を出して、ついでにベケットとの関係性を築くための犠牲にされてしまった。

・そこまでならまだ物語らしくするための必要悪として許せるんだけど、問題はその後、パイロットになってから。
パイロットとしてイェーガーに乗っている間、完全に空気になってしまっている。
ほとんどしゃべらず、作戦も立てず、戦い方を決めるのも主人公のベケットのほう。
ベテランと新米、どちらが主導権を握るべきかという点では当然のことなので描写としては自然だと思う。
だけど、せめて闘志を見せるとかマコの存在感を出してほしかった。

・脚本とは別に撮影のほうにも問題があった。
女性ヒロインということで妙な欲を出していた感がある。
特にそういう流れじゃないのにフェティッシュに撮ろうとして、ところどころ雰囲気がおかしくなっている。

■冒頭のネタばらし
・それと個人的に惜しいと思ったのが冒頭のベケットによるナレーション
早々に主人公が、兄弟の弟のベケットのほうだと明かしてしまったのはもったいない。
兄弟の何気ない描写にもう3分くらいかけて、どちらが主役かわからないようにしておいたほうが意外性が出て、兄貴の方が殺されるシーンのインパクトが増したと思う。

■設定周り
・世界観の作り方がしっかりしてる分、本編描写との食い違いが気になった。
頭部が分離してる意味とか、どう見ても手持ち武器が有効なのになぜ使わなかったのかなど、不可解なところがあった。
好意的に解釈しようにも、物語を盛り上げるための都合としか解釈の余地がないのが残念だった。

・・世代の設定があるから、旧世代機と新世代機の技術力の差をもっと描けたらよかったかもしれない。
たとえば、ジプシー・デンジャーの初登場時に棒で殴るもすぐに棒がダメになっちゃって、結局素手で殴り始める。
その一方、新世代機のエウレカはJDの蛇腹剣みたいにハイテク感を強調する武器を使って、技術格差を感じさせる。
こういう流れがあれば「昔はこういう武器を作れなかったんだろう」と納得がいったように思える。
本編だとむしろ逆で、旧世代機のはずのJDのプラズマ砲や冷却装置、火炎放射がすごく効いているように見えるからあまり技術力の差が感じられない。
もっと時間の都合を考えるなら、ブレードを射出式の一発きりにして普段は殴るしかないと印象づけるとか手はあったように思える。
盛り上がる場面の作り方とリアリティのある世界観の折り合わせはまだまだ改善の余地がありそう。



【総合感想】

・気に入った分、つっこみどころも多くなってしまったけれど、総合的には大満足。
怪獣とロボは期待以上で、ストーリーも悪くはない。
見終わった後に正味2時間もあったことに驚いた。そうは思えないほど中身が詰まっていた。
テンポが悪い部分もマコ周りに集中しているので逆に割り切りやすかったのが功を奏したのかもしれない。
続編があったら無条件で見るつもり。

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