劇場版プリンセスプリキュア 『Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』:感想

2017年1月7日
プリプリの劇場版『Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』を見ました。



・全体の印象としては良いところと悪いところがはっきりしている割り切った作りの映画でした。悪いところもどうしてそうなったのか原因に見当がつく内容だったので嫌な感じは特にありませんでした。作り方が個人の趣味に合う合わないの話だと思います。総合的には見てよかったと思える内容でした。

・本作はタイトルのとおり、独立した3つのお話が正味70分ほどで繰り広げられます。内訳は以下のとおりです。
キュアフローラといたずらかがみ:SD体型のプリキュアによるCG無声劇(5分)
パンプキン王国のたからもの:テレビ本編と同じ普通の手書きアニメ(50分)
プリキュアとレフィのワンダーナイト:プリプリ後期EDのCGキャラによるCGアニメ(20分)


【キュアフローラといたずらかがみ】


■習作
・Pixar風のSDキャラが可愛く動くアニメでした。
 それ以上のことが特に言いようがない内容でした。クオリティは悪くないんですが、Pixarやディズニーの作品と比べるとどうしても見劣りします。

・ストーリーも特にありません。
無声劇であり、かつフローラの大切なものとして花の髪飾りが登場したり、フローラが突然魔女のコスプレを仕出したり、本編とは全く関係ない描写が多くてキャラを動かすための舞台でしかありません。

・正直言って習作という感じであまり見る価値はありません。

制作側もそれを承知しているのか、ミラクルライトの練習用として扱っているように見えました。作中で「フローラの動きに合わせてライトを振ってみよう」みたいな指示が何度も表示されていました。好きなだけ振れるということに需要があるのでしょうか。確かに子供の頃はわけもなく物を振り回したりするのが楽しかった覚えはありますが。
ストーリーがその後の話に関わったりもしないので興味がない人は飛ばしてしまってもいいと思います。

■唯一面白かったこと
・フローラ以外の3人のプリキュアも出てきたことはびっくりしました。
もう終わりという頃に出てきたので出ないものだと思っていた3人が出てきて驚かされました。これは面白かったです。

・労力が割に合わないように思うのですが、今後のオールスターで使う予定があるのでしょうかね。


【パンプキン王国のたからもの】

■エンターテイメント重視
・劇場版としてまとまっていました。
本編の番外編としてではなく、この一作で完結させて初見の親御さんでも楽しめるにすることを第一に考えて作られた作品だと思いました。
本編とは関係のないところから始まり、無関係のまま終わります。本編の時間軸のどこなのかとか考えるまでもありません。独立しているおかげでこの劇場版だけ見ても話は過不足なく理解できると思います。

・今作の脚本家の秋之桜子さんは声優であり、舞台の脚本を手がけている方だそうです。当然本編にも関わったことがないしアニメの脚本家でもないので心配していたのですが、わりと上手くできていました。
キャラクターも特徴を捉えているし、話もわかりやすくすることを心がけながらも説明的になることは避けていました。見せ場になる場面も多く、コンテスト形式にすることでバレエやファッションショーなど女の子の興味を引きそうな内容をテンポ良く盛り込んであって退屈させないように心配りしていることが伝わってきました。

・特にはるかたちがパンプルル姫と出会うところは構成が上手いと思いました。
普通に必要なことだけをやるとただの立ち話になって子供が退屈しそうな場面でしたが、間にアロマのコミカルな行き来を挟むことでダルさを緩和させていました。この辺りは上手くできていると感心しました。
「キャラクターは与えられた状況の中で動く」のが物語の基本原則ですが、得てして「状況に合わせてキャラが動く」になってキャラクターに主体性が感じられなかったり、「キャラに合わせて状況が動く」になってご都合主義的に感じてしまいストーリーの説得力が薄れてしまったりしがちです。
今作の場合、アロマから話を聞いたはるかが自分の考えで人形を渡すよう頼んだり、プリキュア以外に王国民も動かしたりしてそういう事態にならないよう積極的に工夫してありました。

・お話全体としては家族で作ったプリンの話が良かったです。
はるかが料理の課題で「プリンを作ります!」と言い出したときには、もしかして実家が和菓子屋さんという設定を知らないのではないかと不安に駆られましたが杞憂でした。和菓子屋さんだからこそ自分のためにいっしょにプリンを作ってくれたことが嬉しかったという流れで、それが今作のゲストである王様たちの家族の思い出につながっていき綺麗にまとまっていました。お話の中核になる部分の完成度が高いと安心して見れます。

・劇場版単独で完結している反面、本編との関連性は薄いです、というかつながりが無いです。
劇場版は本編で触れられない内容をやって作品全体を膨らませる内容であって欲しい、という人には厳しいと思います。

■そこは見たかった
・本編との関連性という点では特にトワの絡みがなかったことが物足りなかったです。
本作はタイトルのとおり、パンプキン王国という悪者に支配された異世界を救うお話です。トワといえば、亡国の王女であり国を取り戻すために堅い決意を抱いているキャラクターです。それなのに自分の国ではないといえ王国を救ったのに特に反応がないのはあまりに寂しいです。

■プリキュアの劇場版としては異色のお話
・お話で一番残念だったのは、最後のパンプルル姫の奮起からのミラクルライトの流れでした。
パンプルル姫が出て来ることを唐突に感じてしまいました。出て来るならもっと前、はるかが王様とお妃様を正気に戻した辺りで出て来れるんじゃないかと思いました。姫様は特に絶望していたり、プリキュアの戦いに勇気をもらったりしたようには見えなかったからです。

・全体的にパンプルル姫が空気だったように思います。
たいていの劇場版の場合、姫のようなゲストヒロインは劇場版のテーマとプリキュアを結びつける接点になることが多いと思います。しかしプリプリの劇場版の場合、親子愛や家族といったテーマの部分は王様とお妃様に委ねられ、プリキュアたちは苦しめられた人々を救う正義のヒーローに過ぎないため人格は薄く、プリキュアから勇気をもらうポジションは蜂起する王国の国民たちに与えられていました。姫の入る隙間がなく、ポッと出のキャラになってしまいました。

・この辺は割り切りすぎたのかなと思いました。
子供はプリキュアのヒーロー活劇を楽しんでもらって、いっしょに来た親御さんは親である王様やお妃様の情愛を楽しんでもらう、そう完全に割り切ってしまった結果が両者のつなぎ目に位置するパンプルル姫の空気化だったのかなと思いました。
ミラクルライトや劇場版限定フォームの出し方が稚拙な辺りはやはりこの手の作品のプロではないなと思わされました。

■アクション
・劇場版クオリティであり、プリプリなので出来栄えは素晴らしかったです。
その場面でメインになるキャラ(フローラor敵ボス)を画面の中心に据えてカメラがぐるっと回りながら大立ち回りを行ったり、映画館の大画面での上映であることを意識したダイナミックな構図が印象的でした。

・惜しむらくは本編がすごすぎたことです。
本編のアクションが劇場版並なためどちらもすごくて相対的に劇場版が際立ちません。いつものシリーズから更に発展した”劇場版”という感覚でいくと地味に感じてしまいます。贅沢な悩みです。

■まさかの手描き
・アクション面での劇場版最大の見どころは、”手描きのプリンセスパレス”だと思います。
巨大化したラスボスの地面が隆起し始めたから敵の攻撃かと思ったら、プリンセスパレスだったときには吹きましたw 地面を割って突如現れ、敵を拘束する姿はまさに処刑場でした。

・それまで使われてきた浄化技がテレビと同じバンクのCGだったのでこの展開は完全に予想外でした。
プリキュアたちの作画と演出も当然力が入っていて、手描きでやるとこんなにかっこよくなるのかと衝撃を受けました。テレビシリーズのほうで最後まで「浄化必殺技も手描きで見たかったな…」という思いがありましたが、この劇場版で解消されました。想像以上にすごかったです。劇場版限定フォームより劇場版限定必殺技のほうが見応えがありました。


【プリキュアとレフィのワンダーナイト】

 ■EDのCGがそのまま動く
 ・本作はフルCG中編アニメであり、監督はスマプリのEDやハチャプリのED、プリプリの後期EDで好評を博したCGディレクターの宮本浩史さんです。

・プリプリ後期EDのデザインそのままにアクションをする映像は圧巻でした。技術的にはかなり面白かったです。演出や構図などまだまだ洗練されていない部分も多いけれど新鮮で見ごたえがありました。一つ一つのシーンどころか1分一秒に見せ場があり、20分があっという間でした。このためだけでもこの劇場版を見る価値があると断言できます。

■期待しすぎて満足度が下がる
・残念なのは内容がとても駆け足なことです。
全体で20分しかないのに展開やアクションを詰め込んでいるから一つ一つのシーンが短く、展開が一段飛ばしで進んでいきます。普通のTVシリーズでいえば総集編のような慌ただしさです。始まったと思ったらもう終わって次のシーンに入っているので、巻き戻し無しではじっくり楽しんだり余韻に浸るのが難しいです。

・また”アクション”であって、バトルではない点はややマイナスです。
敵味方の攻防や逆転劇などになっていないのです。最後の倒し方もかなりあっさりしていて拍子抜けでした。この辺りはCGでアクションをさせるだけで手一杯でアニメーションにはできていないなと思いました。

・クオリティが高いだけに「もっと続きが見たい!」と思ったところでシーンが切り替わると物足りなさを感じてしまいます。
この辺りは見る側が「短い時間に詰め込んでいるからしょうがない」と積極的に割り切っていくべきなのでしょうね。面白いからこそかえってモヤモヤするという奇妙なアンビバレンツのせいで面白さのわりに満足度は控えめでした。割り切って見られる2周目以降のほうが純粋に楽しめますね。

■ストーリーは謎
・アクションが詰め込めすぎなくらいなので、ストーリーは当然ながら期待するものではありません。
アクションに必要なシチュエーションを用意するので手一杯で、物語と呼べるほどのものはありません。唯一、本編の夢の話をなぞってプリプリらしくしているところは良かったです。

・中核になるレフィのことがわからないのがどうにもなりません。
あの世界がどういう場所なのか、レフィの母親が誰なのか(パンプルル姫でもお妃様でもないみたい)、何一つわかりませんでした。

・てっきりレフィ人形はお妃様の考えたオリジナルのキャラかと思っていたのですが、「パンプキン王国に伝わるおとぎ話の登場人物であり、かつお妃様たちは知らないけれど実際にレフィという人物が存在していて、本物のレフィがプリキュアたちに助けてもらうためにパンプルルのレフィ人形を経由して呼び寄せた」ということだったのですかね?


【総合感想】

■バックボーンがあったなら
・3つの話が独立していてシナジーがなかった点はもったいないと思いました。
最初のSD編でいきなり”髪飾り”がフローラの大切なものとして登場したときは、この後の話を見ればこの髪飾りがどういうものかわかるのだろうかと思っていましたが何の関係もありませんでした。最後のCG編もレフィの人形は同じもののはずなのに話のつながりは全然わかりませんでした。

・各パートの時間が限られているのだからこそ、共通項をもたせれば時間を節約しつつ一本の映画として重層的な構造にできて一石二鳥だったはずです。
たぶん製作班が監督から何からバラバラで統括する人物がいないから実現不可能だったのだと思います。つなげられそうな部分が見えてるだけに余計にもったいない感じがしました。

■総評
・親御さんと子供の両方が楽しめるようにストーリー要素を分割し、エンタメのために様々なシーンを盛り込んだ結果、シーン単位では楽しめるが後から全体を振り返ると歪に見える構成となりました。更に3つの独立した作品を従来の上映時間のまま詰め込んだため余計にまとまりがない印象が強まってしまいました。がっかりとかではなく、「みんながんばったのに、なんでこうなっちゃたのかなぁ…」と一抹のやるせなさが残る作品でした。

・その辺を割り切ってみれば、内容が凝縮されていて見どころの多い作品だと思います。特に3つ目のレフィのワンダーナイトはプリキュアのEDを見てすごいと思った人なら必見です。全体の流れを把握して見たほうが楽しめる作品なので見終わってからもう一度見直すと印象が良くなると思います。


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