個と全の不一致 『仮面ライダーフォーゼ』最終回まで見て:感想&考察

2012年9月2日
感想文は途中で止めましたが、仮面ライダーフォーゼを最終回まで見終わりました。
仮面ライダーフォーゼ VOL.1【Blu-ray】仮面ライダーフォーゼ VOL.1【Blu-ray】
(2012/02/21)
福士蒼汰、高橋龍輝 他

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最後までついていけませんでした。というのもどこが中心なのか掴めなかったからです。
でも最終回を見て、不思議と納得できた部分がありました。フォーゼという作品がよく表れていたと思います。

個と全の不一致
これがフォーゼの問題だと私は思います。
弦太郎と仮面ライダー部。スイッチやプレゼンター周りなど宇宙設定とキャラの関係。シリーズ構成の中島かずきと三条脚本。中島の独自性とライダーの持つ普遍性。様々な要素がありましたが、それぞれにズレや矛盾があり、結果として全体に歪な印象を受けました。
それぞれの要素について考えてみたいと思います。

■弦太郎とライダー部

・フォーゼは弦太郎を中心に世界が回っています。ただひたすら自分の考えをゴリ押しして通した最終回を見てもそれは明らかです。友情と謳ってはいますが本質はカブトのような俺様系の物語です。

・個々の場面においては弦太郎が絶対とされる一方で、全体ではそうでもありません。「俺はこの学校の全員と友達になる男だ!」と何度となく言いながらも、全く友達になれなかった人が何人もいます。レオやリブラ、他の倒したゾディーアーツたちのほとんど何の関係も築けていません。
世界が弦太郎を肯定するならば全体の説得力に関わるこの部分は強引にでも結びつける努力が不可欠だったと思います。

・ライダー部も弦太郎の味方の信者のようでいて実際には弦太郎の個性を潰す存在になってしまいました。
最たるものはJKです。情報源としていろんな生徒と関わり、役立つ情報でライダー部に貢献してくれましたが、彼がいなければもっと弦太郎と名も無き生徒との交流や関係性を描写できました。

・それでいて終盤は全くライダー部が役に立ちませんでした。唯一の戦力パワーダイザーはどこへ行ったのでしょう? 「正義のために戦う仮面ライダー」と「ただの部活動」に分かれてしまったように見えます。
ここでも弦太郎の語る博愛精神とライダー部の仲間のためという二律背反な要素として障害になって弦太郎のキャラを弱めています。

サブキャラも魅力的に描きたいと思い、ライダー部の面々に力を入れたのでしょうが結果的に弦太郎の邪魔になってしまいました。弦太郎とライダー部、どちらが重要なのか優先順位を決められなかったのはフォーゼの大きなミスだったと思います。

■宇宙設定とキャラの関係
・なぜ宇宙と友情というテーマ性を絡めたのか。そこが最後まで謎でした。
一応、「宇宙には一人じゃいけない!みんなの力が必要なんだ!」ということなんでしょうが、ライダー部と理事長の中だけでそれを語った気になられても困ります。そもそも理事長にもレオやリブラなど協力者はいるわけで。実際コアスイッチの覚醒がなければリブラの死の時点で理事長の勝ちで終わっていました。

・弦太郎が最後に「宇宙と友達になる!」と言っていましたが、個人的には最も引っかかったところです。
弦太郎はライダー部を最重視し、「この学校の全員と友達になる」というように身近な範囲で大きな目標を作る人物だと思っていました。それがいきなり地球も飛び越えて宇宙です。弦太郎は勢いだけでそういうことを言う人だったでしょうか。話の流れで言わされたようにしか見えません。弦太郎を中心に描きながら、最後に物語の終わりを優先する。これは最低の下策だと思います。弦太郎を中心にするならエピローグも学校で友達作りに奮闘する弦太郎を描いて、ライダーとか関係なく友達になる夢を追いかけてる姿を描くべきでした。
最後も戸惑う相手に「全員と友達になる男だ!」といつもの決め台詞と共に笑顔で手を差し伸べる姿か、友情の儀式で終わらせるほうが弦太郎の物語として終われたでしょう。

■シリーズ構成の中島かずきと三条脚本
・シリーズ構成兼メイン脚本は中島かずきですが、実質的にはWで活躍した三条陸さんが全体の3割を担当しています。
しかもコズミックを筆頭にフォームチェンジ回など重要な回は三条さんが担当していました。私は大の三条さんファンですが今回は裏目に出てしまったようです。

・エキセントリックとも言える独自の世界観を持つ中島脚本に対し、三条さんは王道を丁寧に行きます。
1話のゾディアーツである三浦のその後や3年生の卒業など各キャラの気になる面に触れ丁寧に描いてくれました。しかし作品の方向性から見ると、これは瑣末な要素で描かなくて良い部分でした。普通であれば賞賛される内容でしたがシリーズ構成とあまりにも考え方が異なっていました。
おそらく特撮初挑戦に不安を覚えた上層部がサポートにつけたのでしょうが作品全体に対しては逆効果だったようです。

■中島かずきのオリジナリティとライダーの持つ普遍性
・グレンラガンでも分かる通り中島さんの書く脚本は独特です。
常識や普通という概念をあえて無視することでカタルシスを出そうとしているように見える人です。それに対しライダーには正義のために戦うなど『仮面ライダーとしての文法』が存在します。
この二つが交わったときどうなるか。それはフォーゼを見た人ならご承知の通りです。

・弦太郎は自分の夢のために戦っているのか、正義感ゆえなのか、仲間のためなのか、悪に染まった敵への思いなのか。
毎回重きが置かれる部分が異なり一貫性がありません。「人間は単純ではない」と片付けようにも無理があります。世界を救いたいから敵を止めるのか、敵を救うことが世界を救うことになると考えているのか、その違いはフォーゼにとって非常に重要です。
自分の世界観と仕事として求められていたもの。その二つで揺れてしまったのがこの結果だったのでしょう。与えられた条件を満たした上で自分を発揮することは苦手なようです。

■フォーゼという作品
・思えば理事長を止めるという、始めからずっと続いてきた目標を一貫してやり遂げたはずでした。しかしやりきった達成感がまるで感じられませんでした。
それは中島かずきという個性と作品全体としてのズレが積み重なっていった結果だったと思います。

・それに対し最終回はすっきりまとまっていたのは、ノルマが『理事長を倒して終わらせる。』それだけで自由にやれたからだったのでしょう。
全ての回で一貫して、これくらいの個性を出せていればフォーゼという作品も変わっていたかもしれませんね。

【個人的感想】
・ストーリーは半端でしたが、商業作品としてはかなりがんばっていたと思います。40個ものスイッチにバガミールまで販促しなければならない重責に現場は見事に応えていました。
ダイザーの打ち上げは? とか、メテオストーム…とか、いろいろ残念なこともありましたが、似たオーズと比べても各スイッチの個性は出せていて上出来だと思います。

・メテオのアクションが好きだっただけにメテオストーム化後の展開はちょっと…
フォーゼも背中のブースターを活かした序盤のアクションが個性的で好きだったので、マグネット後の戦闘はあまり楽しめませんでした。コズミックの複合スイッチも予算の壁に阻まれて少なかったですし。

面白いところもあるが、全体のまとまりに欠けている。見るのも悪くないが、見る価値があるかは怪しい。
それが私のフォーゼの感想です。


コメント

4 件のコメント :

  1. あまり記事とは関係ないかもしれませんが、グレンラガンのどのあたりを独特と感じたのかお聞きしたいです。
    いまさら昔の記事にコメントいたしますが、お暇なときにお答えいただければと思います。

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    1. グレンラガンは例と挙げたもので、あくまでフォーゼに関わる範囲でお答えしたいと思います。

      中島かずきさんの持つ価値観と登場人物の造形が独特だと私は思っています。
      シモンやカミナの思想はおよそ一般的なリアルな考え方とは異なるものだと私は考えます。「無理を通せば道理が引っ込む」のように言葉遊びのようなイデオロギーが多く、台詞としてのケレン味はある一方、キャラクターとしての一貫性やリアリティは乏しいです。
      世界観から作ったSFファンタジーであるグレンラガンやキルラキルなら「そういう世界だから」と言えば済みますが、現実をベースにした実写作品であるフォーゼではそうはいきませんでした。中島さんの持ち味が足を引っ張る形になったと私は考えています。

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  2. マルゲリータ2023年8月27日 21:51

    先日、二周目を見終わりました。個人的には、粗はあれど面白い作品だと思いました。因みに、タウラス回が一番好きです。

    >・弦太郎が最後に「宇宙人と友達になる!」と言っていましたが、個人的には最も引っかかったところです。

    私もここには驚きました。まだ目標を達成できていないのに、飛躍しすぎだと思います。弦太朗の性格から「友達の友達は、皆友達だから、目標達成!」なんて考え方はしていないと思いますし。
    それに、owlさんもおっしゃる通り、積極性がなかったのも問題でしたね。ちらほら、知り合いが増えている描写はありましたが、基本話すのはライダー部の面々とだけでしたし、元スイッチャーのお見舞いに行くとか、挨拶運動をするとか、そういう描写が合っても良かったのでは?と思います。

    ところで、owlさんは何座でしょうか?私は山羊座で、まあ分かってはいましたが、二話で片付けられる怪人で、何故かロッカーでちょっとガッカリした思い出があります。

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    1. >元スイッチャーのお見舞いに行くとか、挨拶運動をするとか、そういう描写が合っても良かったのでは?と思います。

      「友達」と言うからにはそういう弦太朗の人格や思い入れが感じられる描写が欲しかったですよね。
      実際にはいわゆる「クラスのみんなと友達になる=実際は顔見知り程度」みたいな綺麗事的な内容でむしろ信用ならない人物のように見えてしまいました。最後の宇宙人と友達になると言い出したことといい、自分で考えたお題目なのかプロデューサーか誰かのアイディアか知りませんが上手く取り込めてない要素が悪目立ちした印象です。

      >owlさんは何座でしょうか?

      私は魚座です。フォーゼだと扱いが良いようなそうでもないような微妙な立ち位置ですね。

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