『ひろがるスカイ!プリキュア』:2クール目まで見終わった時点での感想

2023年7月22日
『ひろがるスカイ!プリキュア』を24話まで見た時点での感想です。

■シリーズ構成主体で小さくまとまる傾向
・全体の雑感としてはこんな印象です。他のシリーズ構成の人で言うと香村純子さんに近い印象です。

・アゲハの初変身回すら担当しなかったりカバトン撃破も任せていたり、販促などノルマ要素に力が入ってない点は心配です。
番組の根幹である販促を嫌がると無駄が増えすぎてストーリー全体も締まらなくなりやすいです。シリーズ構成の金月さんの登板回数は24話中11話と多くはなく、クールの最初と最後になりがちで中だるみも生じているように感じます。
メインストーリーはソラとそのパートナーのマシロが中心になっていて、ツバサとアゲハが早々にメインストーリーからは浮き気味になっているところが不安材料です。
こういう割り切りや切り捨てによる中だるみは几帳面な展開やキャラクター描写とは相性が悪いと思うのでメイン部分だけ評価する場合でも悪影響が出る恐れがあります。

・いわゆる”ヒーロー”という既成概念ではなく「ソラにとってのヒーローとは何か」を問いただしたり、「マシロにとってのヒーローはソラである」と提示したり、一つ一つ丁寧に触れている点は個人的には好きなのですが全体としては温度差が激しく歪になっているのは否めないです。この先で擦り合せが上手くできるかどうかやシリーズ構成の登板数によって出来栄えが上振れするか下振れするかが左右されそうです。

1,2クール目の感想

■ツバサ
・登場から変身までがほぼ前後編だけで済ませられて少し戸惑いました。
変身までの流れはエルちゃんを上手く使えていたから違和感は少なめでした。あそこまで危機的状況で勇敢に献身的に接してくる相手が目の前にいたらそりゃ覚悟も決まるでしょう。エルちゃんの好感度の転写はよくできていたと思います。

・一方、「騎士になる」という話は唐突に感じました。
その前が「空を飛べるようになりたい」という目標を中心にツバサの話が進んでいたので戸惑いました。「スカイランドでは騎士になるには自力で空を飛べないといけない」みたいなルールがあるならわかるんですがその後でもやっぱり特に見当たらないんですよね。

・騎士になることと空を飛ぶことはツバサにとって同義なのか、そもそもプリキュアになって空を飛べるようになれば満足なのかどうかの判別がつかず、しばらくモヤモヤを抱えることになりました。
21話になってようやく空を飛ぶ夢に関してはあれで満足だったらしいと答え合わせができました。それでいいんですね。どうやらツバサの目標は飛べれば手段や再現性は問わないか、悪口を言ってきた村の連中を見返すことが目標で、種族全体の飛行能力獲得や空を飛んでしたいことがあるわけではなかったようです。
扱いも小さいですし、これならもうちょっとわかりやすくしたほうが良かった気がします。小さい目標だろうが個人にとっては重要なことですし、そもそもツバサは小学生相当の子供みたいですしね。大それた目標でなくても支障は無いと思います。

・「変身した時点でだいたい夢が叶って満足してしまっている」という点ではハトプリのイツキっぽい印象です。
エルちゃんのお世話役かアゲハへのリアクション担当など狂言回し役を担当していることが多い印象です。キャラクター性はメンバーで一番薄いように感じます。小市民には小市民なりに活躍してほしいのですが、夢が無いといった話はマシロのほうに持っていかれているので現状だとツバサの落とし所は不透明です。
「シリーズ初の男性プリキュア!」と銘打った割には空気気味になっているところはスタプリのエレナと似た臭いを感じます。ポリコレに興味はないので扱いの小ささは構わないんですが、出したからにはちゃんとキャラクターを活かしてほしいです。

■キュアウイング
・キュアウイングはバランスが取れているなと思いました。
衣装や言動は男の子っぽさを感じさせる要素が散りばめられていると思いますし、それでいてプリキュアとしての違和感が出ないように作られていると思います。変身バンクの腕を伸ばすシーンは勢いとかっこよさと可愛さが両立していて良かったです。

・ただし、”それだけ”という感じでもあります。
「男性のプリキュアを出す… そうするとどうなるの? どういう話をするのに男性が必要なの?」というそもそもの必要性には答えられてる気はしません。
この程度の存在意義だと否定する気も応援する気もしません。ノルマで出てくる武器や追加戦士と大差ありません。

■スカイランド編
・カバトンを倒した後のスカイランド前後編は緊迫感があって良かったです。
爆弾ランボーグとの攻防は個人的にはとても良かったです。
アップドラフトシャイニングで生じる謎円盤を物理的に壊して破ろうとするのは論理的でしたし、丸くてツルツルの爆弾から無造作に腕が何本も生えてきてへし折ろうとする姿は結構怖かったです。ファンタジー的な世界観だからこそのリアリティが感じられて、デザインの良い使い方だと感心しました。

・ストーリー面では人死にや呪いの犠牲者は新幹部のバッタモンダーを印象付ける上でも効果的でした。
強さで成り立っている自分のプライドのために戦うカバトンに比べて、他者を虐げ優越感に浸るために積極的に踏みにじりたがるバッタモンダーの悪辣さが光りました。
そして悪役が目立つからこそソラたちのヒーロー性も輝いて見えました。

・ただ、緊迫感があった分だけその後の中だるみが余計に辛く感じました。
スカイランド前後編が終わった15話から次にメインストーリーが進んだのは22話になってからでした。ストーリーは進まないし、バッタモンダーの悪行もスケールがスカイランド編を上回ることもなく、停滞感が強かったです。

・22~23話の決着はひろプリらしさが感じられて良かったです。
自分が犠牲になる覚悟や隊長が死んでも戦い続ける覚悟はあっても「自分のしたことで隊長を殺すことになるかもしれない」ことは覚悟できないのは納得感がありました。前編で「絶対にやれると覚悟が決まるまでは手帳に書けない」と言っていたのでソラのメンタルが本質的に脆いことは理解できました。
それまでの漠然としたヒーロー像を失い挫折して自分はヒーローではないと挫けながらも、実際に憧れだったシャララ隊長と話したり、大切な友達と出会ったりした経験を元に友達のために、信じてくれる仲間のために立ち上がって戦場に立つときには「ヒーローの出番です!」と言えるようになったことはソラにとっては大きな前進だと思いました。

・シャララ隊長の命運はあっさりしていましたが、私はあれで良いと思いました。
「仲間の考えた今できる最善を信じて戦う」とソラの覚悟が決まった時点でお話の要点は終わっていたと思います。仮に隊長が助からなかったとしても、ソラが悲しむことが追加される程度でその後の流れは大差ないと思います。

・ひろプリの提唱するヒーロー像が純粋な「正義の味方」みたいな頼れるヒーローではなさそうな点は個人的には安心しました。
そういう方向は”プリキュア”とは相性が良くないと思うからです。プリキュアは本来的には「普通の女の子にヒーローパワーが宿った」であって、あくまで中学生の女の子であることのほうが第一義だと思っています。プリキュアでヒーロー性を高めていくと自己犠牲や献身、悪への怒りなど日常要素や個人性は薄れていき、普通の女の子らしさが消えていきがちだと思います。
ヒーローをテーマにするなら尚更そうなる可能性は高いだろうなと思っていたので極めて個人的なことを理由にしたソラの挫折と再起には安心しました。中学生ならそれくらいの理由のほうが健全な思考だと思います。

■アゲハ
・本来的にはスカイランド編から決着までの間に書くべきことが後回しになったことがポジションを物語っています。アゲハの変身に関しては特に書くことが無いんですよね…
覚悟や勇敢さは最序盤の時点で示されていましたし、戦う理由もありましたしソラたちの事情も把握しています。特に疑問も変化もないので「変身して戦えるようになりました」という事実以上に思うところがありません。

■キュアバタフライ
・バリアが張れて、攻撃もできて、強化や回復ができる専用アイテムも持っていて追加戦士みたいな盛りっぷりでした。

・ビジュアルは変身前からの変化が一番少ない印象です。生身でも戦闘に介入していたので言動も差を感じません。ビビットな見た目のわりには実際の印象は地味でした。「戦う力を得ただけ」という実態には即しているのですがドラマ的には地味なことはよろしくないと思います。

・必殺技は蝶形のバリアで相手を押しつぶすバタフライプレスで「浄化とはいったい…?」と疑問に思いました。まぁパンチや体当たりがOKなんだから潰しても問題ないだろと言われればそれはそうなんですが。

・バンク映像はフィナーレの必殺技やフラミンゴのバンクを担当された芳山優さんでした。
私は苦手なのであまり言うことがありません… カクカクしてることより動作が肉眼では見えず動きが飛んでいるところが嫌です。いわゆる”VMAX”みたいなぶつかり合いを直線で俯瞰的に描くような演出もそうなんですが、何をしてるのかある程度見えないと感じようがないと思うんですよねぇ。

■バッタモンダー
・バッタモンダーの扱いは悪の幹部という以上のものが少なく物足りない印象です。
まだ退場したと決まったわけではありませんが、これで退場だともったいないと思います。「余裕があるときは偽善者ぶる小心者」という造形はシャララ隊長の件で心が折れたソラとも通じるところがあると思います。カバトンと同じなら”与えられた力”ですし、ソラやプリキュアの写し鏡としての役割も果たせたと思います。





コメント

14 件のコメント :

  1. こんばんは
    ここまで視聴してひろプリは、Hugっとのような印象を持ちました。何が似てるかというと話題性です。

    Hugっとでは「ワンオペ育児の是非」「アンドロイドとの友情」「ウイングの前段階とも呼べる男性プリキュア」「前代未聞の出産シーン」といった奇をてらった表現が幾つも見られました。実際そういった回はTwitterでも毎週のようにトレンドを占めてました。
    ひろプリも「主人公は青」「男性&成人プリキュア」「まだ来ない追加戦士」「目的が未だ見えない敵組織」のように話題を集めるプロットで構成されています。

    やはり記念作品(15周年、20周年)となるとこう、世間に問いかけるような作品が受けるのでしょうか?

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    1. 匿名さん、こんにちは。

      私は特に類似性を感じていないので話せることはあまり無いと思います。
      男性プリキュア以外は他のプリキュアでもありふれた特徴付けの一環だと思います。「目的が未だ見えない敵組織」に至ってはむしろ話題性が低いほうだと思います。話題性を追求するなら目的を明確にしたほうがウケが良いと思います。

      主張の正当性を証明したいならば、逆に「話題性を追求していないと思うプリキュア」を探したほうが早いと思います。話題性のないプリキュアのほうが多くなければプリキュアは話題性を追求するのが当たり前だということになるでしょう。

      男性プリキュアに関しては本文で触れたように話題性狙いやポリコレ思想以外のものを感じていないので深堀りする意義を感じません。

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  2. 振り返りお疲れ様です

    「男」とか「成人」とか要素だけ切り取って見ると話題性狙いムンムンですが、どっかの30分後と1時間後と違ってそれぞれのキャラクターをちゃんと描いているので余り気にならないですよね。と思っていたのですが普通すぎて逆にわざわざそう銘打って投入した意味をあまり感じない、というのは成る程と思いました。

    恐らく最初の1クールでじっくりやってたように一番やりたいのはソラ、ましろのバディ物なんだなって思います。追加2人の影がやや薄いのはそのせいかなと。

    今のニチアサだと一番等身大のヒーローとか道義を真面目に説いてくれる番組だと思うので、残り2クール頑張って欲しいです。

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    1. 匿名さん、こんにちは。

      >と思っていたのですが普通すぎて逆にわざわざそう銘打って投入した意味をあまり感じない、というのは成る程と思いました。

      良くも悪くも”普通”だと思っています。
      いちキャラクターとしては特に問題ありません。「特別なキャラクターです」と銘打たれると、言うほど特別でなくて違和感が生じます。
      プロデューサーとかが浅い考えで押し付けてきたものだとしたら、クリエイター側の受け流し方としては良いほうだと思います。

      >恐らく最初の1クールでじっくりやってたように一番やりたいのはソラ、ましろのバディ物なんだなって思います。

      現状だとそんな印象ですね。
      OPやEDからすると元々「コンビ*2組」という座組のようですし。

      >今のニチアサだと一番等身大のヒーローとか道義を真面目に説いてくれる番組だと思うので、残り2クール頑張って欲しいです。

      上振れしてくれると良いですね。

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  3. 敵同士の話し合いがどうのこのと巷で批判されてますが、ここ最近の敵もプリキュアもいまいち描写できずに終わってきたのに比べたらよっぽど見やすいです。
    あとエルちゃんの育児描写が割とちゃんとあるのも個人的に高評価です。

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    1. 少なくともプリキュア側の人数を多くするなら敵よりもプリキュアに時間を割くほうが健全だと思います。
      どちらかを切り捨てるなら空気なプリキュアが生まれるより敵に敵という以上の存在感が薄いほうがマシでしょう。

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    2. 返信ありがとうございます。
      お聞きしたいことがあって、「好きだし割と出来がいいプリキュア(姫プリ除く)」「嫌いだけど出来がいいプリキュア」「好きだけど出来の悪いプリキュア」「嫌いだし出来の悪いプリキュア」「そもそも作品になってないので何の感情もない」に分けた時、何がどこに入りますかね?
      面倒くさい質問で恐縮ですが、気になりまして…

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    3. >「好きだし割と出来がいいプリキュア(姫プリ除く)」

      強いて言うならフレッシュですね。ヒーローものとしては整っていると思います。現行のヒーロー路線の走りであり完成度も高いほうだと思っています。
      ダンスの収まりが良くなかったところはあまり出来が良いとは言えませんが。日常やポジティブの象徴をドーナッツに取られちゃってダンスの居場所があまり無いように感じるところはありました。

      >「好きだけど出来の悪いプリキュア」

      スイートプリキュアですかね。
      ハミィの「もうすぐ音符が集まる詐欺」を筆頭に序盤から響と奏をかなり引っ張るなど状況が進展しない中だるみが何度もあってストーリーがだるんだるんでした。

      ただ、ケンカやノイズなど日常にあるマイナス面を中心に扱ったことは個人的には好ましく思っています。力ではどうにもならないものやむしろ力があるほうが虐げてしまいがちになりかねないことは力を与えられる系のヒーローとも相性が良いと思いますし。
      ノイズの扱いなど含めて出力された出来栄えは全然良いと思いませんが割と好きです。

      他の質問は下位のランク付けをする気がないので答えられません。あるとすれば各作品の感想記事が答えだと思います。

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    4. なるほど。
      初代やハトプリ、スマプリなど所謂「人気作品」が入ってないんですね。owlさんの評価基準と私の作品に求める物が割とマッチしているので、いつも感想見させてもらってます。
      どうもありがとうございました。

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    5. そうですね。一般的な人気作品とは合わないことが多いと思います。

      初代プリキュアは感覚が合わないのであまり語ることがありません。
      「女の子だって暴れたい」という時点で私は女の子じゃないしバトルものに親しんでいるので「別にいいんじゃないの?」としか思えません。コンセプトのターゲット層から明らかに外れてるので私がどういうこと自体がナンセンスだと思っています。
      ストーリーが破綻しているとかも特にないのであとは好みの問題だと思っています。
      といって、中盤後半の「いつもの敵幹部にいきなりマーブルスクリューぶっぱ→効かない→苦戦するけどまたマーブルスクリュー撃って今度はなんか効いて敵が撤退」みたいなグダグダが何度も繰り広げられるバトルは普通にダメだと思うので殊更出来が良いとも思いません。

      ハトプリは「○○なんてくだらない」「くだらなくなんてない!」な、ワンパターンな説教バトルが嫌いだしつまらないと思うので私の評価は低いです。
      それと個人的にはバトルやアニメーションとストーリーの不一致が嫌です。アクションや賑やかしではエリカ/キュアマリンが目立つ一方、メインストーリーになると全く出番がなくなり、いなくてもいい存在になって主人公ばかりが目立つのはいびつだと思います。
      ただ、傾向としてはプリキュアはそういうもののほうが多いのでその在り様を否定もできないと思っているので一概に出来が悪いとも言い難いです。

      スマプリは私は好きです。
      ただ、提示された評価基準にあてはまらないと思いました。わかりやすく言えば「エンタメ10点、ストーリー0点」みたいな作品だと思っているので評価基準次第で評価は大きく変わります。平均点で言えば5点なので良くも悪くもありません。
      私はその極端さを評価していますが、他のプリキュアにも同じ基準をあてはめようとは思いません。目指すものが明らかに違うのなら評価基準も変えるのが筋だと思っています。

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    6. 個人的にスマプリこそ「○○なんてくだらない」「くだらなくなんてない!」が多いと思った。マーチが虫苦手でプリキュアが小さくなる回まで見たけど毎回「くだらない、くだらなくなんかない」で飽きちゃってそこから別プリキュア見始めたぐらい。スマプリがなんで人気があるのかまだわからない、まだ魅力を見つけられてない。

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    7. それはそうなると思いますよ。
      私が「ストーリー0点」と言ったストーリーのほうを重視していたら面白さは見つけられないのは当然だと思います。
      真に魅力を見つけたいと考えているなら自分の視点は一旦捨てて「製作者は何がしたいのか? どこに力を入れているか」といった視点から見ていく必要があると思います。

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  4. 私も芳山優さんのアニメーションはカクカクしてて嫌いです。
    彼女の作画は一目でわかるので、出てきた瞬間にちょっと萎えます。
    最初は予算や時間が足りなくて中割りが描けないのかと思ってましたけどあれが彼女の作風なんですねー。

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    1. 意図的にああいう演出をやりたがる人がいるんですよねぇ。あれにはあれの良さがあるんでしょうけど、私はまだ理解できません。
      「目に止まらぬ動き」みたいな作中でも特殊な動作ならわかるんですが、普通の動作をああやって飛ばす。しかも他のプリキュアや場面はそういう演出になってないのにやる。というのが理解し難いです。

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