仮面ライダー電王 最終回まで見て:感想

2013年10月31日
youtubeの東映公式で配信していた『仮面ライダー・電王』を最終回まで見ました。
リアルタイム当時は内容についていけずリタイアしてしまいましたが、平成ライダーで見ていない唯一の作品だったのでがんばって見てみました。

【良かった点】
■内容が面白い
・ほぼ小林靖子さんが一人で書いているため、ストーリーはまとまっていて1話単位でも描写の積み重ねと盛り上がりがしっかり含まれていて面白いです。この辺りは安心の小林さんですね。

■フォームチェンジが上手い
・クウガ以外の平成ライダーのフォームチェンジというと必然性の無いものがほとんどです。アギトみたいに「どう違うの?」と思うものから、キバみたいに「この状況ならあのフォーム使うべきだろ」とツッコミたくなるものばかりで有効活用できてる作品はほとんどありません。その点は電王は必然性があって面白かったです。

・フォームの力の源がイマジンなので人格があり、そのシーンごとに出てくる必然性が感じられました。イマジンに振り回されることもあったので正義の味方として見ると薄ら寒い面もありますが全体としては良かったと思います。強化フォームもストーリー展開と絡んでいて、上手く設定と組み合わせているなと感心しました。

【馴染めなかった点】
■きぐるみ劇
・イマジンたちのきぐるみ劇はリアルタイム当時と変わらず全然楽しめませんでした。良太郎の人格変化も同様です。主要人物であるイマジンへの感情移入の促進と性格描写という以上には内容が無いのが辛かったです。その回の登場人物とも全体のストーリーからも切り離されていて、イマジンたちに興味が無い私にはあの時間が苦痛でした。普段はふざけているけどキメるときはキメる。その演出効果はわかるのですがそれ以外の意味もほしかったです。きぐるみ劇が少なくなる後半のほうが楽しめました。

■内輪に向いた閉塞感
・ストーリーから設定まで徹頭徹尾、良太郎と姉の愛理、それにモモタロスたちイマジンのために作られていて閉鎖的な感じがしました。ストーリー面でも設定でもきれいにまとまっているのですが、正義のヒーローかと言うと怪しいです。周りの一般人の人たちは救われたというよりも、むしろ良太郎たちの巻き添えにされたように見えました。特異点の修復能力が便利過ぎたせいもあると思います。

■カイとはいったい
・もう一つの点がカイの描き方です。全ての発端であり黒幕のカイ、テンプレ的悪役ではなくカイ側の事情や心情も多少描かれていました。それだけに不満が残る展開でした。特異点であり時間の流れも知った上でイマジンを利用して過去を乗っ取ろうとする、そんな常軌を逸した行動をする以上、そうなった経緯があるはずです。何の答えも見せず、同情さえされないまま死なせるには引っ張りすぎです。設定面でもカイ一人のせいで腑に落ちない点が多くできていると思います。ライダーの枠では描ききれないスケールで不釣合いだったと思います。

【総合感想】
■クオリティは高い。しかし趣味が分かれる
・ストーリー、アクション、設定、いずれもクオリティは高くよくできた作品だと思います。しかし根幹部分が人を選ぶ内容だと思います。
 ・モモタロスたちのきぐるみ劇に興味が無い人
 ・見知らぬ人のために戦うヒーローらしいヒーローが見たい人
 ・SF要素を期待する人

上記に該当する人にはオススメしません。逆に運命とか背負い込まない等身大のヒーローが好きな人には良いと思います。

■個人的感想
・フォームチェンジの必然性や人格が異なるために動き方が全く違うアクションなどアクション面では面白かったです。ストーリーは設定面では興味を引かれましたが、良太郎やモモタロスたちに全く感情移入できなかったので最後まで他人ごとでした。自分たちの命運が世界につながるというのは苦手です。最後まで巻き込まれ型で、侑斗でさえ積極的にカイを排除しようとしなかったり、登場人物の攻撃的な面が描かれなかったのが好きになれません。敵も味方もお優しい。あの雰囲気に馴染めませんでした。それでも作品全体ではよくできていたと思えるので趣味に合った人ならハマるのも当然かなと思います。

コメント

9 件のコメント :

  1. こんばんは、いつもあなたの感想を楽しみにしている者です。
    敵も味方もお優しい、の意味、主人公たちに感情移入できなかった理由をもう少し詳しく教えていただけませんか?

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    1. こんばんは。お褒めの言葉、ありがとうございます。
      ご質問頂いた件について回答させていただきます。

      >敵も味方もお優しい、の意味
      これは一言で言うと、「怒りや憎しみなど負の感情が見当たらない」ということです。絵に描いたような聖人で現実味が感じられませんでした。
      良太郎も侑斗も、そしてカイでさえも大義や合理的な目的のために動くことが多く、個人的な負の感情で動くことがなかったように思います。電王での戦いは人間とイマジン、そして世界同士の生存闘争であり、かなり過酷な戦いのはずです。事実、ハナや桜井さんのように多くのものを失った人もいます。滅ぼした側であるカイも、それを自分たちが生き残るための当然の犠牲として認識しているようでした。
      このような状況であれば、大義や目的を抜きにして「憎いから殺す」「復讐する」といった原始的な感情が湧き起こっても当然だと思います。

      しかし良太郎たちはいつも冷静に見えました。
      理路整然と話すか、もしくは話しても無駄だから実力行使するかのどちらかで感情に流されることがありませんでした。冷静で合理的な判断で、主人公としては頼もしく好感を持てる側面もありますが、人間味が感じられませんでした。そういった意味を込めて「優しい」ではなく、「お優しい」と表記しました。
      なおこれが悪いことだとは思っていません。物語ですし子供向きでもありますから、そういうきれい事も有りだと思います。

      >主人公たちに感情移入できなかった理由
      こちらは主に上記の良太郎たちの人間味の無さと、モモタロスたちイマジンと良太郎に都合の良いご都合主義的展開が苦手だったからです。ご都合主義の例として「特異点」です。大半のことがこれで良太郎たちにとって良い方向に片付いてしまって、かつそれで良太郎が被害に会ったりする負の側面は描かれなかったことが都合が良すぎるように感じてしまいました。

      感情移入という単語は言い換えると「主人公を応援したいと思えるか」「自分と重ねて共感できるか」ということを意味しています。
      良太郎たちを応援したいか、と聞かれれば答えはNoです。だいたいの物事が良太郎にとって良い方向に働きますから放っておいても大丈夫です。むしろ良太郎に巻き込まれる周りの人や世界のほうが気の毒に思えて、良太郎たちがトラブルメーカーに見えました。
      共感できるか、と聞かれても答えはNoです。人間味が感じられず、応援したいわけでもない相手に共感はしません。共感という点ではカイのほうに少し共感するところがありました。

      以上の要素が私が感情移入できなかった主な理由だと思います。
      これで説明になったでしょうか? わからなかった場合にはお手数ですが、具体的な内容で再度ご質問いただければお答えできるかと思います。

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  2. 毎週楽しく読ませていただいています。この前ゴーストのコメント欄で「ライダーと戦隊は自分にとって数ある映像作品の一つに過ぎない」と仰ってましたが、そのようなファン目線でない方のご意見というのも大変貴重な物だと思いますので、今後も是非続けて貰いたいです。

    前置きが長くなりましたが、管理人さんは平成ライダーシリーズ全体の中での電王の立ち位置というか、果たした功績というものについてはどのようにお考えですか?例えば、今ではすっかり定番となった、年三回の映画公開ですが、元を辿れば電王で派生映画が多数製作されたのが始まりのような気がします。その他様々なビジネス展開の手法について、電王が後のシリーズに及ぼした影響は良くも悪くも無視できない部分があると思うのですが…

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    1. お褒めいただきありがとうございます。そういったご意見が励みになります。

      >今ではすっかり定番となった、年三回の映画公開ですが、元を辿れば電王で派生映画が多数製作されたのが始まりのような気がします。

      そうですね、私もそう思います。
      特に「放送終了後の派生作品でも売れる」という前例を作ったのは電王だと思います。売り方に関して与えた影響は大きいでしょう。

      ただ、電王好きでない一介の視聴者としてはあまり喜べないところもあります。
      数を作るほど本編のクオリティが下がることは事実ですし、ディケイドやオールライダーなどその後の電王の出しゃばりぶりは不快に感じることもありました。商業的な功績は認めますが、積極的に肯定したいとは思えない側面もあります。

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  3. こんにちは。いつも興味深く読ませてもらっています。

    電王もWも動画サイトの公式配信でご覧になったとのことですが、普段から定期的に旧作を見返しているんですか、それとも感想を書こうと思った作品のみその都度見ているとか?

    もし余力がおありなら、平成一期作品の感想記事もできるだけ挙げていただければと…催促するわけではありませんが、個人的にはクウガの感想が一番読みたいです。理由としては単純に好きな作品であること、さらにライダーシリーズ全体の中で大きなターニングポイントとなった作品だと思っているからです。

    それから余談になりますが、私はここ数年、アクションシーンにあまり重点を置かずに見ることが多かったのですが、このブログに出会ってから、各シーンやエピソードにおけるアクションの意味や位置付けなど、これまで私には全く無かった新しい視点が養われました。この先幼少期に見た作品を見返す機会があった場合にも、新たな発見が生まれる可能性ができたことになります。そういう意味ではとても感謝しています。これから先も読み応えのあるレビューを楽しみにしています。

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    1. こんにちは。こういった質問は嬉しいです。

      >普段から定期的に旧作を見返しているんですか、それとも感想を書こうと思った作品のみその都度見ているとか?

      基本的には見返しません。その時間を新作や見てない作品に充てるほうが多いからです。
      電王に関しては記事に書いたとおりリアルタイム当時に挫折した経緯があり、ちょうどyoutubeの公式配信で手軽に見れたので見ることにしました。

      Wに関しては趣味です。リアルタイム当時も見ていたのでこれで2回目でした。好きな作品ですが当時はブログを始めてなかったので記事がなく、かつ放送中のライダーが辛い時期だったため気晴らしに書くことにしました。

      >もし余力がおありなら、平成一期作品の感想記事もできるだけ挙げていただければと…

      残念ながら時間的に厳しいですね。見たのはずっと前なので書くなら1話から見直さないといけません。しかし見るにも時間がかかります。記事を書くためだけに見るのはモチベーションが足らないでしょう。無理に書いても良い記事が書けないと思います。

      代わりにここで軽くクウガの印象について書いておきます。

      匿名さんの仰るように平成ライダーの起点になった重要な作品だと思います。内容も面白く、今見ても楽しめる作品だと思います。刑事ドラマがベースなので特撮に馴染みがない人にも見やすく、それでいて役割分担のはっきりした個性的なフォームチェンジなどライダーとしての骨格もしっかりしています。ライダーシリーズ全体で見ればかなり異質な作品なので平成ライダーファンにもオススメできると思います。

      私にとってクウガで一番印象に残っていることは”バイクアクション”です。
      バイクがあるんだからバイクを活用したほうが良いと思っているのですが、あまり強く言えないのはクウガがあるからです。あまり本格的にし過ぎるとそれはそれで厳しいものがあるなと実感させられました。すごいとは思うけど楽しくなかったです。

      クウガは良い作品だと断言できるのですが、個人的には引っかかるところが1つあります。それは「ライダーというより刑事もの」に見えたことです。
      ライダーに刑事ドラマを取り入れた、というよりも「刑事ドラマの事件を怪人の仕業に置き換えた」ように私には見えました。
      クウガが作られた時代背景を考えればそれは当然のことだと思います。大きくフォーマットを変えてシリーズ化を目指すなら、既にある完成度の高いものを模倣するほうが成功率は格段に高いからです。それは正しい判断だったと思います。
      しかしこのやり方をシリーズの基本に置くべきかというと疑問があります。シリーズとして作るならば「ライダーに何をさせるか」の方向で考えるべきであり、「何の題材でライダーをするか」という方向に進むのはライダーのアイデンティティが薄れていくと思うからです。その点ではかなりマンネリ気味だった平成1期の井上敏樹&米村時代も血を濃くするために存在意義があったと思っています。
      クウガは良い作品だと思いますしシリーズを一新した作品でもありますが、だからといって神格化するのも行き過ぎだと私は思っています。ディケイドと同じように年月が空かない限り、一度しか使えない手法だと思います。

      >これまで私には全く無かった新しい視点が養われました。

      そう言っていただけると書いた甲斐があります。
      私も昔同じように作品に対する人の解釈を見て見識が広がっていったので、少しでもお役に立てて嬉しいです。それこそが感想の意義だと思います。

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    2. ご丁寧にありがとうございます。

      私にとってクウガは初めてリアルタイムで視聴したライダーで、特撮に興味を抱くきっかけにもなった非常に思い出深い作品です。同様にクウガに魅せられた人は大勢いると思いますが、それ故なのか現行の作品を批判する材料としてクウガをクウガを引き合いに出す人をここ数年よく見かけます。(そういう人は多くの場合、他の平成初期の作品とセットで語ることがあります)そういう声を目にする度に、果たして他の作品も全部クウガみたいなテイストだったとして、それでシリーズが上手くいったのだろうかと疑問に感じてきました。むしろそれはそれで早々に無理が生じていたはずです。平成ライダーがここまでヒットした理由はクウガをあえて一発ネタに留めたからこそ、というのが僕の持論だったのですが、管理人さんのお話を聞いて、その考えにより確信が持てて嬉しかったです。

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  4. すごくわかりやすい感想の数々、読ませて頂きました。
    苦手とおっしゃる作品でも、ただただ批判だけを書かれるのではなく、良い所等を発見して添えてあるので、安心してたくさん読めました。

    私は電王から特撮を見るようになったのですが、当時を思い返してみると少女漫画(或いは少年漫画?)のように小さな範囲で展開するドラマだったので、幼い車内ノリも含めて違和感なくハマれたのかなぁと思います。周りの女子大生もOLも見てました。懐かしい。
    「記憶喪失の女性」「消えた婚約者」そういう悲恋の雰囲気が、普段あまり特撮を見ない層を取り込んだのかもしれませんね。

    さて、そんな電王ファンの端くれでも、やはりカイの周辺の物語は微妙でした。
    エピソード数が足りなかったのか、そもそも必要ないと判断されたのかはわかりませんが、あの終わり方は残念でした。理由は挙げられている通りです。
    主人公達が何故カイの排除に動かないかというと、主人公と同じ特異点だから消去できない、という理由が考えられます。戦っても無駄だから戦わないという。
    でも、ラストでは倒せたし。矛盾ですよね。自滅の意思があれば消える設定なのかも。

    ともあれ、こちらの整然とした感想を読んで、仮面ライダー好きな家族が「電王だけは分からんなー」と言っていた理由の一端が理解できたかもしれません。
    着ぐるみ「が」良い、と着ぐるみ「は」いい(要らない)の違いですね♪

    余談ですが、本作の後の映画でもイマジンは出てくるけれど、カイは出てきません。
    本編の物語を終わらせる為だけのキャラクターであった事は少し残念ですが、
    今年のウルトラな役を同じ俳優さんが演じていて、光の力をお借りしたりしているのを見て、
    長年のもやもやが何故か慰められました。

    このブログも特撮も応援してます。

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    1. 温かいコメントありがとうございます。ご参考になれば幸いです。

      >当時を思い返してみると少女漫画(或いは少年漫画?)のように小さな範囲で展開するドラマだったので、幼い車内ノリも含めて違和感なくハマれたのかなぁと思います

      少女漫画ですか、なるほど。そういう視点は私にはないので参考になります。
      「世界は主人公のためにある」という設計が少女漫画的なのかもしれませんね。

      >今年のウルトラな役を同じ俳優さんが演じていて、光の力をお借りしたりしているのを見て、
      長年のもやもやが何故か慰められました。

      あちらは打って変わって、爽やかな役柄でしたね。
      顔は見覚えがあるけれども、同一人物だと聞くまでピンと来ませんでした。

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