シャイニング・ハーツ~幸せのパン~Volume.1 (初回限定版) [DVD] (2012/07/27) 神谷浩史、伊藤かな恵 他 商品詳細を見る

紆余曲折を経て、最後に幸せのパンへと至る。良いパンアニメでした。
パンと剣。破壊と創造。物と心。考えてみると意外と対比構造が多いですね。登場人物はそれぞれどちらかに寄っているけれど、決してそれだけで動いているわけではない折り重なった心情が深みを感じさせます。

■それぞれの幸せ
・中でも最後のそれぞれのキャラの”幸せ”の描き方が印象に残っています。
パンを作りたくさんの人の幸せを創り出す困難な道を選んだリック。泥棒という破壊に近い行為でも、それで救える人もいると信じたシャオメイ。年を重ねる中で若者を導くことにかけがえの無いものを見出したマデラ。それぞれの幸せが他者を通して描かれていました。その中にディランが混ざっていることがまた良いですね。食べ欠けのガーリックトーストに込められた思いとフローラの表情。それを想像するだけで二人の物語がかいま見えるようです。

・カグラの存在も重要です。無垢と純真。破壊を司る食いしん坊。何もしてないように見えますが最後にリックに与えた影響は考えていたよりもずっと大きなものでした。パンを作ることで与えられる喜びだけでなく、一つの幸せを誰かとわかちあうこともできる。あのときそれを思い出させた存在であり、与え続けてきたことに疲れたリックを受け止めてくれる存在。それがカグラだったのでしょう。彼女がいたからリックはもう一度修行し直す道を選べたのだと思います。

・最後の開店バンクにリックが参加したのはリックの変化を良く表しています。今までの”パン屋”のリックなら表には出て来なかったでしょう。ただ美味しいパンを作るだけでは幸せのパンは作れない。そう理解しつつあるからこそのシーンです。

■アニメとしてのシャイパン
・最終回手前２話でパンが全然なかったから味わえるこのカタルシス！爽快感だけじゃなく、ルクールが再開店した嬉しさと結びつけて視聴者の没入感を一気に高める練りに練った演出でもあります。ＥＤを見てもわかる通りの限られたリソースを上手に上手に振り分けて乗り切ったこの手腕は評価されてしかるべきだと思います。こんなにすごい人だとは思ってなかったですよ。とてもL/R作った人とは思えません。

・シャイパンは世界観の見せ方が見事でした。パンを神のような絶対的存在として描く狂気の沙汰を圧倒的なパン作画＆演出で信じこませ大前提を作り上げる。そのパンを作る存在として主人公を描くことでリックのご都合主義な超人設定やハーレムの不自然さが全く気にならない。『木を隠すなら森の中』とはこのことですね。まさかそのためにファンタジー的においしいエルフやシルフまで、ただのパン好きA・Bにされるとは思いもよりませんでしたｗ

■ゲームの販促としてのシャイニング・ハーツ
・過去の設定を匂わせつつも全然見せてくれない見せ方がいやらしいですね。ラスボスの台詞とかメインでないところで織り交ぜて、アニメ本編の内容には邪魔にならずに上手く視聴者の興味を引いている。ＰＳＰを持っていたら「ちょっとシャイパン２買ってくる！」って間違いなくなってました。
ゲームの販促としても、アニメ単品としてもきちんと成り立っています。これだけ見事な販促アニメはそうはないです。完全後追いアニメ化作品としては３本の指に入ります！

・それに何よりスーファミの聖剣シリーズでお馴染みの菊田さん。あの音楽が聴けるだけでもほしくなりますファンタジー感バリバリなのに疾走感のあるあのメロディ。良いですねぇ。
正直言って、こんなにもハマるとは全く思っていませんでした。「シャイニング・ハーツ？また保志が歌うの？」とか思ってた頃が遠い昔のようです。

・パンアニメとしてのオリジナリティ。ゲームの販促としての巧みさ。アニメという映像作品の持つポテンシャル。そして一人のアニメ監督、川崎逸朗さんの手腕。いくつもの味わいを楽しめる美味しい作品でした。

・個人的にはファンタジーの持つ可能性を再確認できたことが嬉しいです。リックを中心とした物語自体はありふれたものなのに、パンという独特の世界観を加えたことで他にはない独自性が生まれた。それでいて各登場人物の心情や生き様がありありと感じられる叙情的な作劇。大きなウソをつくことで、小さなリアルが浮き彫りになる。やっぱり良い物ですね。

P.S こんなのあるんだ…！ちょっとほしい。（値段は見ないほうが幸せです。）

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