『ヘボット』最終回まで見終わって:総合感想
・放送終了してから3週間経っていますが、アニメ『ヘボット』の全体感想を書いていきたいと思います。いや~、すごい作品でした。ヘボットと肩を並べる作品はあと十年は出ないんじゃないかと思います。
まず「ヘボットの魅力とは何か?」という点を軸に語っていきます。
*「ヘボットの魅力」の欄ではネタバレはほぼ無しで、「総合感想」ではネタバレありで書いてあります。
【ヘボットの魅力】
■ギャグ+SF
・私が一番心を惹かれた点はここでした。ギャグものとSFものにはそれぞれ欠点があると私は思います。
・ギャグものはギャグ単体でも理解できるため瞬発力に優れる一方、物語としてのゴールやメリハリに欠けるため長期的に見続けるモチベーションを生み出すことが苦手です。1クールくらいなら枠組み自体がメリハリになるのでなんとかなりますが、4クールとなると20話を過ぎたあたりから「面白いけどもういいかな…」とふとした瞬間に飽きてしまうことがよくあります。ストーリーものなら「あの展開やこの伏線がどうなるか気になるし、もう少し見てみるか」と見続けることがありますが、ギャグは単体で完結している分そういうところが弱いです。
・反対にSFは長期的な展開に優れる一方、短期的な楽しみを供給することが苦手です。壮大な世界観など風呂敷を広げることは得意ですが、序盤は風呂敷を広げるための展開だけが続いて、その今は何もない広がりに可能性を見いだせる一部のSF好き以外には退屈な展開として見放されることがよくあります。
・壮大な物語だけど各回の展開が弱くなりがちなSFと各回の盛り上がりは得意でも先の展開に期待させることが苦手なギャグ。ヘボットでは2つの要素を組み合わせることで互いの欠点を補っていました。
まとめてみると仕組みとしてはシンプルですが、ヘボットのすごいところは相乗効果を生み出したところです。
・1話冒頭のシリアス展開はその最たるものです。
ギャグアニメだと思って見始めたら突然スターウォーズみたいな宇宙要塞での攻防が繰り広げられ、少女の死体を抱えて慟哭する少年や主人公とライバルが実は似た存在であるとほのめかされたり、全くついていけないシリアス展開が数分間も続きます。
それが終わったと思ったら、主役のヘボットが「たぶんめっちゃ先の話勝手に流すな!今の無し!」 とメタ視点でのツッコミをしてOPに入り、その後改めて「主人公は王子様で、今日誕生日を迎えたので王族の儀式としてこれから旅立ちます」なんて至って普通の導入部から本編が展開されていきます。
・まずここに度肝を抜かれました。
基本がギャグなのでこの冒頭のシリアス展開に全く触れずに進めても、「やらないんかい!」って肩透かしギャグになりますし、シリアス展開につなげても「1話冒頭でやってたんだからつなげるのは当たり前だろ?」と言い張れます。 100%ギャグの展開にも100%シリアスなSF展開にもギャグとシリアスまぜこぜのカオスにも、どうとでもスムーズにつなげられる拡張性に圧倒されました。
・SFとギャグの相性は思っていた以上に良かったです。
「壮大な設定」というのはえてして笑いのタネにされることがあるくらいですのでギャグとしても使えます。逆にギャグをSFに活かすことも可能でした。
ヘボットは並行世界のような世界観になっていて「『俺たちは君だ』=実は登場人物A,Bは別の時間軸にいた主人公が成長した姿である」なんて作中の登場人物に認識させることが面倒な事も「そういうの漫画とかで見たことある」の一言で済ませられます。
普通のSFだったらその分野の研究者など設定をつけたり、作中で経験させたりしないと不自然になりますが、ギャグとして済ませれば一瞬で面倒な展開を終わらせられます。これはSFとしてはかなりの強みでした。展開を圧縮することでSFの面白さを損なわず、テンポの良さを生み出すことでむしろより面白くなっていることが素晴らしかったです。
■なんだかんだでまともなストーリー
・SFやギャグというと実感の薄い縁遠いお話のように聞こえるかもしれませんが、ヘボットの基本的な展開はそうでもありません。
友情や愛情、別れと新たな出会い。可能性を信じる諦めない心などキッズ向け作品ではオーソドックスな熱い内容も含まれています。要所要所では主人公のネジルと相棒のヘボットとの結びつきが何度も試されますし、話が進むにつれて脇役や新しい登場人物など関係性が進展していきます。
ギャグやSF関連で破天荒な展開が続いても安心して見られるのは、こういう基盤がしっかりしているからだと思います。
・最後にはシリアスなSF要素とギャグの融和自体がストーリーで扱われました。
シリアス一辺倒で行った場合、血で血を洗う抗争と破滅へと向かい、ラストではシリアスもギャグも両方あったからハッピーエンドにつながったと示されました。
■脅威の販促
・ヘボットの魅力といえば個人的には「販促」も語らずにはいられません。キッズ向け作品でずっと気になっていた問題に大きく踏み込んでくれました。
・その問題とは「実際に販売されている玩具と作品に出てくる物の違い」です。
本編の後にCMを見たり、玩具売り場で商品を見たときにこう思ったことがある人は少なくないと思います、「あれ、これ本編で映っていたのと違くない?」と。 ヘボットではこれは変わらず、図のとおりアニメに登場するヘボットと実物の玩具では大きな差があります。(左がアニメで、右が玩具)
アニメではこれをどうしたかというと、”別物”として扱ったのです。
アニメに登場するヘボットはただの「ヘボット」、玩具のヘボットは「DXなヘボット」として別物扱いしました。事あるごとに主人公が「DXなヘボットが欲しかったなー」と言ったり、実際の玩具にある機能の紹介をするときにヘボットが玩具の実写トレーズで描かれたり、これでもかというほどに別物として描かれました。これにより「玩具とアニメのヘボットは別物だけど、玩具のほうも玩具として本編で何度も見たことがある。よって玩具は偽物ではなく本物である」というロジックが成立したのです。これでは「アニメで見たのと違う!」なんて言えません。何度も作中で見ていますからね。あまりにスマートな解決方法に感動しました。ぐぅの音も出ません。
・玩具への踏み込み具合はこれだけに留まらず、関連商品にまで踏み込んでいきました。
ヘボットには主力商品のDXヘボット以外にソフビやぬいぐるみもあるのですがソフビに関しては「ソフビット」というキャラクターとして登場させ、1話まるまる使って販促を行いました。その内容は「ソフビットがヘボットに成り代わろうと謀殺しようとしたり暗躍する」という内容で、「一体成型だから手足が動かせない」だの、「ソフビだからネジを刺せない(DXヘボットは頭のネジを入れ替えて音声を鳴らして遊ぶ玩具)」など、普通の販促作品では聞くことがない言葉がいくつも飛び交うとんでもない内容でした。
それでいて最後は「アニメに登場するヘボットもDXヘボットもソフビもぬいぐるみもみんなヘボット。君が選んだヘボットが君だけの相棒になる」と綺麗にまとめてあってまた驚きました。奇をてらっているようで、子供にとっての玩具とは何かという点を理解しているところもヘボットの魅力の一つです。
・一つ残念なことは3クール前に玩具の生産がストップし、後半は販促がほとんど無くなってしまったことです。
販促要素を絡めたほうが面白かったのでこれは非常に残念でした。後半の数少ない販促要素を見る度に「やっぱりヘボットは販促があったほうが面白いなぁ」としみじみ思いました。 普段は「販促が多すぎてストーリーの邪魔」と思うことのほうが多いのですが、ヘボットは真逆でもっと販促があったらなと思う珍しい作品でした。
■キャラとアニメーション
・高い作画クオリティと演出もヘボットの魅力の一つです。キッズ向けどころか深夜アニメも軽く超える圧倒的な物量と質の高さにたまげました。場面ごとの圧倒的情報量がヘボットの特徴の一つですが、この作画クオリティなくしては成立しなかったでしょう。
・アニメーションとしてすごいと思った端的な例としては、このキャラ、ナグリ王妃です。
手のように動く髪の毛ともみあげを持った6本腕のキャラです。画面に映ったときの情報量がすごいです。両手でキャラの心情を表し、髪の毛の手は説明を行い、もみあげの手で視線誘導と彩りを添えています。わかりやすさと表現の深みを両方盛り込んだ素晴らしいデザインと演出でした。
・キャラクターもユニークでした。ギャグキャラなのでみんな濃いです。
販促でネジを登場させるためのキャラから名も無きモブキャラまで濃ゆかったです。トマトやマカロニ、”意味のない踊りを踊る男”など自分で書いた文章を見ても正気を疑うようなキャラまで様々でした。
一部を抜粋しただけの公式カレンダーでもこの有様です。でもこれだけいてもだいたい名前や出たところを思い出せます。ポッと出のモブからレギュラーキャラまでみんな印象に残っています。
・萌え方面も思いのほか充実していました。
見た目は美少女なのに「尻が臭い」と言われたり、ギャグキャラらしい裏表の無さと飾り気のないデザインが良かったです。演出や見せ方も凝っていて、顔がヘボットそのままになってるヘボ子でさえも可愛く見えるのはすごいと思いました。
【残念だった点】
■ギャグ
・元々期待していなかったので気にしてないのですが、私には笑えないもののほうが多かったです。
楽しみ方はあくまで何かを暗喩した抽象的表現としての受け止め方で、ギャグ本来の持ち味である”笑い”に関しては反応に困るほうが多かったです。
・特に玩具の遊び方でもあるボキャバトルは最後まで面白さがわかりませんでした。CMで見た時点でこれは何が面白いのだろうと本気で首を傾げていたのですが、最後までわかりませんでした。玩具が売れなかったのは残念なことですが、個人的には納得でした。
【総合感想】
■1クール目の印象
・1話を見たときにはついていけるか不安でした。
私がヘボットを見ようと思ったきっかけはシリーズ構成が冨岡淳広さんだったからです。放送開始前に玩具のCMを見て、コロコロ系のギャグ全開な感じで自分には合わなそうだとは思っていましたが、予想とはまた別のベクトルでぶっとんでいました。でも合わなそうであればこそ今までとは違った冨岡さんが見られるかもしれないと思い、がんばってついていこうと心を奮い立たせて2話以降に挑んだことをよく覚えています。1,2話は今見てもきついので無理もないですね。ギャグの密度と駄キャラの量が半端ないです。
・ユーコさんが出た3話辺りからマイルドになってだいぶ楽になりました。ユーコさんは使い捨てのゲストの予定でレギュラー化する予定が当初はなかったらしいですが、もしいなかったらと思うと恐ろしいです。ユーコさんがユーコさん役以外で登場するシーンを全て駄キャラで置き換えたらハードルが相当上がっていたでしょう。
・4話からのネジキール卿やマンドライバーの登場から1話冒頭のSF展開も本気で回収する姿勢が見えてきて盛り上がりました。この頃はネジルたちが関わらないのでシリアスパートはシリアス一辺倒でしたね。この辺りから軌道に乗ってきて安定して楽しめるようになりました。
■2クール目の印象
・引き続き干支ボキャボットの販促を中心に、ソフビットの登場した17話「ネジささるゆえにヘボあり」に、没キャラを題材にした22話の「ライネジング・サン」 など様々な回がありました。
・ネジキール卿やチギルたちが登場した23、24話では一気に話が進んで引き込まれました。この辺りからネジルたちもシリアス要素に絡んできて、ストーリー展開への関心が更に深まりました。
■3クール目
・24話のチギペケ参戦から間髪をいれずに27話で新ED、29話でスゴスゴインダー登場とこの辺りの盛り上がりは凄まじかったです。 そろそろ慣れてきたかと思い始めた頃にペースを上げられてまた追いつくのに必死になりました。
・31~40話頃は打って変わって、販促もなくなって中だるみでした。 冨岡さん恒例の「魔の3クール」の法則からはヘボットも逃れられませんでした。公式に行われた傑作選でも見事に入っていないあたりお察しです。後期干支ボキャボット組の商品化さえできていれば結果は違っただろうかと無念です。
■4クール目
・ナグリと太陽系会議が登場した39話からはラストに向けてメインストーリーが進みっぱなしでした。振り返ってみるとほとんど4クール目で進めてるんですね。
・49話は”最終回”らしい内容で面白かったです。
ボキャリーマンズを見て脇役もかっこいいと思い始めるモエカスやナグリとジル国王。他のキャラやネジルのやり直しとかもっと詳しく見たいシーンがいくつもありました。でも49話は「最終回を終わらせて、元のヘボットに戻す」ことが目的だったからあれでいいのでしょうね。登場人物がみんな重苦しく考えてシリアスを突き詰めた結果が1話冒頭や49話の展開ですから。シリアス一辺倒だったヴィーテ姫さえも「楽しそうだから」という理由でギャグに加わりました。ネジキールが最後に黒ヘボットを裏切った理由もマンドライバーたちと関わりを深めたことが要因でした。ネジルたちの創り出した笑いの渦に感化されたのですからネジの真理に沿っています。
・最終回はなるほどなぁという感じでした。
メッセージ性を出しすぎて説教臭くなった感じはありましたが、今までの流れも含めてそういうのがやりたいんだろうなと伝わってきたので納得はできました。しかしヘボットの二次創作ってまともにやろうとすると相当大変ですよね。どうすれば”ヘボットらしい”内容になるのか想像がつきません。
■残った謎
・だいたいの謎は説明され残ったものもある程度想像がつくものですが、残った謎の中で私が一番謎に感じているのはネ人造人間関連です。
作ったのが誰なのかも謎ですし、何のために周回に投入されていたのかはもっと謎です。終盤まではヴィーテ姫が非道にも改造して使っているのかと思っていましたが、終盤の言動からするとそれも怪しくなってきました。ネ人造人間はヘボットのレベル上げにも役に立っていないし、わざわざ投入する意義が感じられません。リスクを犯してまでする価値は無いように見えます。
不合理なのも「全部フィーネのせい」で終わりなんでしょうかね…?
■全体を振り返って
・面白かったです! ヘボットのおかげで一年間楽しく過ごせました。
販促もストーリーもアニメーションも大満足。個々のクオリティも全体の完成度もどちらもハイレベルでした。久しぶりに面白いとはこういうことだと思える作品でした。
・スタッフクレジットを振り返ってみると、監督がコンテを担当した回が25話分もありました。全50話だからちょうど半分です。異例の量ですね。
監督以外の回だと内容に物足りなさを感じる回が多かったので、安定して楽しめたのは監督のおかげといって間違いないでしょう。
・一方、シリーズ構成の冨岡さんが登板したのは11話でした… ローテーションで参加してる他作品のほうがよほど登板回数が多いです。相変わらず頻度に難があります。面白いんだからもっと書いてほしいです。
冨岡さんを追いかけることを目的として見始めたヘボットでしたが、冨岡さんのほうの収穫はあまりありませんでした。作品全体では監督の影響度のほうが高そうなので冨岡さんの影響はあてになりません。でも見て良かったです。おかげで良いものが見られました。こういう思わぬ収穫があるからギャンブルは止められません。
■これから見る人へのアドバイス
・1,2話はきついので辛いと思ったら3話あたりから見ると楽です。
1話冒頭の10分くらいを見ればシリアス要素や主人公とヘボットの概要は把握できます。慣れてきた頃に改めて1,2話を見れば話には問題なくついていけます。
・設定やストーリーに興味がある人は一度に見るのは1,2話程度に留めておくほうがオススメです。
4,5話に一度はそれまでに起きたことの真相や関連描写が入るので一気に見ると説明的に感じてしまうでしょう。 見終わった後に「この回は物足りなかったな」と思ったら次の回も見るくらいがちょうどいい、いろんな発見があってまた楽しめます。
まず「ヘボットの魅力とは何か?」という点を軸に語っていきます。
*「ヘボットの魅力」の欄ではネタバレはほぼ無しで、「総合感想」ではネタバレありで書いてあります。
【ヘボットの魅力】
・私が一番心を惹かれた点はここでした。ギャグものとSFものにはそれぞれ欠点があると私は思います。
・ギャグものはギャグ単体でも理解できるため瞬発力に優れる一方、物語としてのゴールやメリハリに欠けるため長期的に見続けるモチベーションを生み出すことが苦手です。1クールくらいなら枠組み自体がメリハリになるのでなんとかなりますが、4クールとなると20話を過ぎたあたりから「面白いけどもういいかな…」とふとした瞬間に飽きてしまうことがよくあります。ストーリーものなら「あの展開やこの伏線がどうなるか気になるし、もう少し見てみるか」と見続けることがありますが、ギャグは単体で完結している分そういうところが弱いです。
・反対にSFは長期的な展開に優れる一方、短期的な楽しみを供給することが苦手です。壮大な世界観など風呂敷を広げることは得意ですが、序盤は風呂敷を広げるための展開だけが続いて、その今は何もない広がりに可能性を見いだせる一部のSF好き以外には退屈な展開として見放されることがよくあります。
・壮大な物語だけど各回の展開が弱くなりがちなSFと各回の盛り上がりは得意でも先の展開に期待させることが苦手なギャグ。ヘボットでは2つの要素を組み合わせることで互いの欠点を補っていました。
まとめてみると仕組みとしてはシンプルですが、ヘボットのすごいところは相乗効果を生み出したところです。
・1話冒頭のシリアス展開はその最たるものです。
ギャグアニメだと思って見始めたら突然スターウォーズみたいな宇宙要塞での攻防が繰り広げられ、少女の死体を抱えて慟哭する少年や主人公とライバルが実は似た存在であるとほのめかされたり、全くついていけないシリアス展開が数分間も続きます。
それが終わったと思ったら、主役のヘボットが「たぶんめっちゃ先の話勝手に流すな!今の無し!」 とメタ視点でのツッコミをしてOPに入り、その後改めて「主人公は王子様で、今日誕生日を迎えたので王族の儀式としてこれから旅立ちます」なんて至って普通の導入部から本編が展開されていきます。
・まずここに度肝を抜かれました。
基本がギャグなのでこの冒頭のシリアス展開に全く触れずに進めても、「やらないんかい!」って肩透かしギャグになりますし、シリアス展開につなげても「1話冒頭でやってたんだからつなげるのは当たり前だろ?」と言い張れます。 100%ギャグの展開にも100%シリアスなSF展開にもギャグとシリアスまぜこぜのカオスにも、どうとでもスムーズにつなげられる拡張性に圧倒されました。
・SFとギャグの相性は思っていた以上に良かったです。
「壮大な設定」というのはえてして笑いのタネにされることがあるくらいですのでギャグとしても使えます。逆にギャグをSFに活かすことも可能でした。
ヘボットは並行世界のような世界観になっていて「『俺たちは君だ』=実は登場人物A,Bは別の時間軸にいた主人公が成長した姿である」なんて作中の登場人物に認識させることが面倒な事も「そういうの漫画とかで見たことある」の一言で済ませられます。
普通のSFだったらその分野の研究者など設定をつけたり、作中で経験させたりしないと不自然になりますが、ギャグとして済ませれば一瞬で面倒な展開を終わらせられます。これはSFとしてはかなりの強みでした。展開を圧縮することでSFの面白さを損なわず、テンポの良さを生み出すことでむしろより面白くなっていることが素晴らしかったです。
■なんだかんだでまともなストーリー
・SFやギャグというと実感の薄い縁遠いお話のように聞こえるかもしれませんが、ヘボットの基本的な展開はそうでもありません。
友情や愛情、別れと新たな出会い。可能性を信じる諦めない心などキッズ向け作品ではオーソドックスな熱い内容も含まれています。要所要所では主人公のネジルと相棒のヘボットとの結びつきが何度も試されますし、話が進むにつれて脇役や新しい登場人物など関係性が進展していきます。
ギャグやSF関連で破天荒な展開が続いても安心して見られるのは、こういう基盤がしっかりしているからだと思います。
・最後にはシリアスなSF要素とギャグの融和自体がストーリーで扱われました。
シリアス一辺倒で行った場合、血で血を洗う抗争と破滅へと向かい、ラストではシリアスもギャグも両方あったからハッピーエンドにつながったと示されました。
■脅威の販促
・ヘボットの魅力といえば個人的には「販促」も語らずにはいられません。キッズ向け作品でずっと気になっていた問題に大きく踏み込んでくれました。
・その問題とは「実際に販売されている玩具と作品に出てくる物の違い」です。
本編の後にCMを見たり、玩具売り場で商品を見たときにこう思ったことがある人は少なくないと思います、「あれ、これ本編で映っていたのと違くない?」と。 ヘボットではこれは変わらず、図のとおりアニメに登場するヘボットと実物の玩具では大きな差があります。(左がアニメで、右が玩具)
アニメではこれをどうしたかというと、”別物”として扱ったのです。
アニメに登場するヘボットはただの「ヘボット」、玩具のヘボットは「DXなヘボット」として別物扱いしました。事あるごとに主人公が「DXなヘボットが欲しかったなー」と言ったり、実際の玩具にある機能の紹介をするときにヘボットが玩具の実写トレーズで描かれたり、これでもかというほどに別物として描かれました。これにより「玩具とアニメのヘボットは別物だけど、玩具のほうも玩具として本編で何度も見たことがある。よって玩具は偽物ではなく本物である」というロジックが成立したのです。これでは「アニメで見たのと違う!」なんて言えません。何度も作中で見ていますからね。あまりにスマートな解決方法に感動しました。ぐぅの音も出ません。
・玩具への踏み込み具合はこれだけに留まらず、関連商品にまで踏み込んでいきました。
ヘボットには主力商品のDXヘボット以外にソフビやぬいぐるみもあるのですがソフビに関しては「ソフビット」というキャラクターとして登場させ、1話まるまる使って販促を行いました。その内容は「ソフビットがヘボットに成り代わろうと謀殺しようとしたり暗躍する」という内容で、「一体成型だから手足が動かせない」だの、「ソフビだからネジを刺せない(DXヘボットは頭のネジを入れ替えて音声を鳴らして遊ぶ玩具)」など、普通の販促作品では聞くことがない言葉がいくつも飛び交うとんでもない内容でした。
それでいて最後は「アニメに登場するヘボットもDXヘボットもソフビもぬいぐるみもみんなヘボット。君が選んだヘボットが君だけの相棒になる」と綺麗にまとめてあってまた驚きました。奇をてらっているようで、子供にとっての玩具とは何かという点を理解しているところもヘボットの魅力の一つです。
・一つ残念なことは3クール前に玩具の生産がストップし、後半は販促がほとんど無くなってしまったことです。
販促要素を絡めたほうが面白かったのでこれは非常に残念でした。後半の数少ない販促要素を見る度に「やっぱりヘボットは販促があったほうが面白いなぁ」としみじみ思いました。 普段は「販促が多すぎてストーリーの邪魔」と思うことのほうが多いのですが、ヘボットは真逆でもっと販促があったらなと思う珍しい作品でした。
■キャラとアニメーション
・高い作画クオリティと演出もヘボットの魅力の一つです。キッズ向けどころか深夜アニメも軽く超える圧倒的な物量と質の高さにたまげました。場面ごとの圧倒的情報量がヘボットの特徴の一つですが、この作画クオリティなくしては成立しなかったでしょう。
・アニメーションとしてすごいと思った端的な例としては、このキャラ、ナグリ王妃です。
手のように動く髪の毛ともみあげを持った6本腕のキャラです。画面に映ったときの情報量がすごいです。両手でキャラの心情を表し、髪の毛の手は説明を行い、もみあげの手で視線誘導と彩りを添えています。わかりやすさと表現の深みを両方盛り込んだ素晴らしいデザインと演出でした。
・キャラクターもユニークでした。ギャグキャラなのでみんな濃いです。
販促でネジを登場させるためのキャラから名も無きモブキャラまで濃ゆかったです。トマトやマカロニ、”意味のない踊りを踊る男”など自分で書いた文章を見ても正気を疑うようなキャラまで様々でした。
一部を抜粋しただけの公式カレンダーでもこの有様です。でもこれだけいてもだいたい名前や出たところを思い出せます。ポッと出のモブからレギュラーキャラまでみんな印象に残っています。
・萌え方面も思いのほか充実していました。
見た目は美少女なのに「尻が臭い」と言われたり、ギャグキャラらしい裏表の無さと飾り気のないデザインが良かったです。演出や見せ方も凝っていて、顔がヘボットそのままになってるヘボ子でさえも可愛く見えるのはすごいと思いました。
【残念だった点】
・元々期待していなかったので気にしてないのですが、私には笑えないもののほうが多かったです。
楽しみ方はあくまで何かを暗喩した抽象的表現としての受け止め方で、ギャグ本来の持ち味である”笑い”に関しては反応に困るほうが多かったです。
・特に玩具の遊び方でもあるボキャバトルは最後まで面白さがわかりませんでした。CMで見た時点でこれは何が面白いのだろうと本気で首を傾げていたのですが、最後までわかりませんでした。玩具が売れなかったのは残念なことですが、個人的には納得でした。
【総合感想】
・1話を見たときにはついていけるか不安でした。
私がヘボットを見ようと思ったきっかけはシリーズ構成が冨岡淳広さんだったからです。放送開始前に玩具のCMを見て、コロコロ系のギャグ全開な感じで自分には合わなそうだとは思っていましたが、予想とはまた別のベクトルでぶっとんでいました。でも合わなそうであればこそ今までとは違った冨岡さんが見られるかもしれないと思い、がんばってついていこうと心を奮い立たせて2話以降に挑んだことをよく覚えています。1,2話は今見てもきついので無理もないですね。ギャグの密度と駄キャラの量が半端ないです。
・ユーコさんが出た3話辺りからマイルドになってだいぶ楽になりました。ユーコさんは使い捨てのゲストの予定でレギュラー化する予定が当初はなかったらしいですが、もしいなかったらと思うと恐ろしいです。ユーコさんがユーコさん役以外で登場するシーンを全て駄キャラで置き換えたらハードルが相当上がっていたでしょう。
・4話からのネジキール卿やマンドライバーの登場から1話冒頭のSF展開も本気で回収する姿勢が見えてきて盛り上がりました。この頃はネジルたちが関わらないのでシリアスパートはシリアス一辺倒でしたね。この辺りから軌道に乗ってきて安定して楽しめるようになりました。
■2クール目の印象
・引き続き干支ボキャボットの販促を中心に、ソフビットの登場した17話「ネジささるゆえにヘボあり」に、没キャラを題材にした22話の「ライネジング・サン」 など様々な回がありました。
・ネジキール卿やチギルたちが登場した23、24話では一気に話が進んで引き込まれました。この辺りからネジルたちもシリアス要素に絡んできて、ストーリー展開への関心が更に深まりました。
■3クール目
・24話のチギペケ参戦から間髪をいれずに27話で新ED、29話でスゴスゴインダー登場とこの辺りの盛り上がりは凄まじかったです。 そろそろ慣れてきたかと思い始めた頃にペースを上げられてまた追いつくのに必死になりました。
・31~40話頃は打って変わって、販促もなくなって中だるみでした。 冨岡さん恒例の「魔の3クール」の法則からはヘボットも逃れられませんでした。公式に行われた傑作選でも見事に入っていないあたりお察しです。後期干支ボキャボット組の商品化さえできていれば結果は違っただろうかと無念です。
■4クール目
・ナグリと太陽系会議が登場した39話からはラストに向けてメインストーリーが進みっぱなしでした。振り返ってみるとほとんど4クール目で進めてるんですね。
・49話は”最終回”らしい内容で面白かったです。
ボキャリーマンズを見て脇役もかっこいいと思い始めるモエカスやナグリとジル国王。他のキャラやネジルのやり直しとかもっと詳しく見たいシーンがいくつもありました。でも49話は「最終回を終わらせて、元のヘボットに戻す」ことが目的だったからあれでいいのでしょうね。登場人物がみんな重苦しく考えてシリアスを突き詰めた結果が1話冒頭や49話の展開ですから。シリアス一辺倒だったヴィーテ姫さえも「楽しそうだから」という理由でギャグに加わりました。ネジキールが最後に黒ヘボットを裏切った理由もマンドライバーたちと関わりを深めたことが要因でした。ネジルたちの創り出した笑いの渦に感化されたのですからネジの真理に沿っています。
・最終回はなるほどなぁという感じでした。
メッセージ性を出しすぎて説教臭くなった感じはありましたが、今までの流れも含めてそういうのがやりたいんだろうなと伝わってきたので納得はできました。しかしヘボットの二次創作ってまともにやろうとすると相当大変ですよね。どうすれば”ヘボットらしい”内容になるのか想像がつきません。
■残った謎
・だいたいの謎は説明され残ったものもある程度想像がつくものですが、残った謎の中で私が一番謎に感じているのはネ人造人間関連です。
作ったのが誰なのかも謎ですし、何のために周回に投入されていたのかはもっと謎です。終盤まではヴィーテ姫が非道にも改造して使っているのかと思っていましたが、終盤の言動からするとそれも怪しくなってきました。ネ人造人間はヘボットのレベル上げにも役に立っていないし、わざわざ投入する意義が感じられません。リスクを犯してまでする価値は無いように見えます。
不合理なのも「全部フィーネのせい」で終わりなんでしょうかね…?
■全体を振り返って
・面白かったです! ヘボットのおかげで一年間楽しく過ごせました。
販促もストーリーもアニメーションも大満足。個々のクオリティも全体の完成度もどちらもハイレベルでした。久しぶりに面白いとはこういうことだと思える作品でした。
・スタッフクレジットを振り返ってみると、監督がコンテを担当した回が25話分もありました。全50話だからちょうど半分です。異例の量ですね。
監督以外の回だと内容に物足りなさを感じる回が多かったので、安定して楽しめたのは監督のおかげといって間違いないでしょう。
・一方、シリーズ構成の冨岡さんが登板したのは11話でした… ローテーションで参加してる他作品のほうがよほど登板回数が多いです。相変わらず頻度に難があります。面白いんだからもっと書いてほしいです。
冨岡さんを追いかけることを目的として見始めたヘボットでしたが、冨岡さんのほうの収穫はあまりありませんでした。作品全体では監督の影響度のほうが高そうなので冨岡さんの影響はあてになりません。でも見て良かったです。おかげで良いものが見られました。こういう思わぬ収穫があるからギャンブルは止められません。
■これから見る人へのアドバイス
・1,2話はきついので辛いと思ったら3話あたりから見ると楽です。
1話冒頭の10分くらいを見ればシリアス要素や主人公とヘボットの概要は把握できます。慣れてきた頃に改めて1,2話を見れば話には問題なくついていけます。
・設定やストーリーに興味がある人は一度に見るのは1,2話程度に留めておくほうがオススメです。
4,5話に一度はそれまでに起きたことの真相や関連描写が入るので一気に見ると説明的に感じてしまうでしょう。 見終わった後に「この回は物足りなかったな」と思ったら次の回も見るくらいがちょうどいい、いろんな発見があってまた楽しめます。
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