仮面ライダーウィザード 第51話/最終話「最後の希望」&最終回までの感想

2013年9月16日
・番組自体はまだ番外編が2話続きますが、ウィザード本編は51話をもって終了です。
51話を最終回として、ウィザード全体の感想を書きたいと思います。
前々回、前回、最終回と見てようやくウィザードの全体像が掴めた気がします。

【ファントムとは】
ファントムは「人の心に潜む悪の心」の象徴のように私には見えました。欲望と言い換えてもいいでしょう。
晴人滝川空仁藤、の3人がファントムの各一面を象徴しています。
邪悪そのものであるグレムリンこと、滝川空。自分の欲望に忠実で、夢のために力を使う仁藤。力はあるが無欲で使命感で動く晴人。この3人の中で中核を成すのが仁藤です。

仁藤は2人と違い自分の意思で、前向きな方向性をもってファントムの力を使います。このわけは仁藤の明るい性格にあるのではありません。仁藤は考古学者となる夢の過程でベルトに出会い、その謎を解き明かすためにその力を使っています。人間の頃から変わらない空と、過程を飛ばして望まぬ力を与えられた晴人とは、そこが大きく異なります。

晴人は最後に自分の最後の希望を掴み取り、基本フォームのまま四属性全てがこもったキックを繰り出します。
このとき晴人は仁藤同様に自分の意思でファントムの力を使っています。インフィニティは守るための力でしたが、賢者の石の力はコヨミとの最後の約束を果たしたいという積極的な気持ちから生まれたものです。デザインがエンゲージ(約束)と同じなのはそのためでしょう。ファントムに近いドラゴン化をせずに、人のまま力を振るう。晴人が過去のしがらみを断ち切り、初めて今の自分の欲望を前向きに肯定した瞬間です。

は魔法使いのダークサイドの存在です。望まぬ異形の力を与えられたことや欲望に忠実であることは魔法使いの2人と同じでありながらも根本的に異なります。ファントムになる前から空は殺人鬼でした。自分勝手な欲望で危害を加える、その心はファントムとなんら変わりありません。空はファントムになっても人の心が残っていたのではなく、なる前から心は悪に染まりきっていたから変わらなかっただけです。人形でありながら人の心を持ったコヨミとは対称的です。

・もう一人の魔法使い、笛木は一般人の代表だと思います。
笛木は元からファントムを宿していたわけではありません。娘を生き返らせるために、その身に人造ファントムを宿しました。元は優しい父親だった笛木が娘を助けたい一心から悪鬼と化す。普通の人間でもきっかけがあれば悪に染まることの象徴なのだと思います。物語上では、希望に対する絶望の重さを表す役割も果たしています。

【ウィザード=今を生きる魔法使い】

・ウィザードの仮面ライダーを象徴する人物は仁藤だと思います。しかし『仮面ライダー・ウィザード』を象徴する人物は晴人だと思います。完成された仁藤に対し、未熟な晴人。だからこそ晴人が主役でなければいけないのです。

・ゲートを守ることも晴人にとっては葛藤の一つでしかなく、未だ心は定まっていなかったのでしょう。だからコヨミの容態が悪化したとき、不安定になったのだと思います。漠然とゲートを守ることを止め、コヨミを救うために悩んだ末の結末は、晴人にとって良い結果ではありませんでした。しかし夢を持たない晴人がようやく目標を定め、自分のために歩み出すことはできました。以前の晴人であれば、真由にゲートを任せずに自分がやると背負い込んでいたでしょう。
晴人が過去を受け入れ、ファントムの力を宿しながらも”今”を生きる魔法使いとなるまで。それがウィザードの物語です。

【私の感じた違和感】


■晴人とコヨミ
・全体を見渡しとメッセージ性がクリアなウィザードですが、大きな違和感を感じる描写が少なくありません。
最たるものは後半の晴人の描写です。コヨミを最優先し、ゲートをないがしろにする態度には強い違和感を感じました。しかし晴人がコヨミに拘ること自体は理解できないことでは無いと思います。魔法使いになった直後からずっといっしょにいた仲間であり、同じサバトの被害者でもあるのですから。

・最大の問題は、晴人とコヨミの本編の前の物語がほとんど描かれていないことだと思います。サバトが起きた半年前から本編が始まるまでの間には、コヨミと晴人が2人で過ごす日々や晴人がゲートを守ろうと決心するエピソードがあったはずです。最も深く晴人の今に関わる部分が欠けています。これでは感情移入できません。

・私には、晴人はサバトの前から虚無感に囚われていたように見えました。
両親の最後の希望として生き残ったものの、諦めが入っていたように思えます。絶望に近かったこと、それでいて我が強かったこと。それがサバトに耐えられた理由ではないかと思います。しかしそんな晴人では魔法使いとなった後も、今のような人々を守る最後の希望にはなりえなかったのではないでしょうか?
晴人を変えた存在、それがコヨミです。コヨミは晴人の魔力に依存しなければ生きられません。それがやがて晴人の自信となり、心の支えになっていったのだと思います。魔法の力でコヨミを助けること、そこから人々を守ろうとする考えにつながっていったのでしょう。

・コヨミの描写も足りなかったと思います。
設定上、晴人に依存している以上、もっと活躍させる必要がありました。序盤ではファントム探知に貢献していたのに、どうしてすぐに止めてしまったのでしょうか。理解に苦しみます。
ガルーダたち、プラモンスターはコヨミの使い魔にしたほうが良かったと思います。自分の命である魔力を削ってまで晴人を手伝おうとする描写になって、時間をかけずに毎回存在感を出せたはずです。
こういったエピソードが描かれていれば晴人の態度への違和感は減らせたと思います。

■脚本の流れとの不一致
・晴人とコヨミに関連して違和感を抱いた描写があります。
それは後半のコヨミ主体の流れと、それまでのゲートたちとの関わり合いが食い違っているように思える点です。

・後半になってコヨミの身体に異変が起きてから晴人が必死になるのはわかります。しかし他の人々がどうなってもいいという考えに至るのは理解できません。もしも晴人が義務感だけで漠然と人々を守ってきたのならそれもわかります。ですが晴人が各ゲートを一人の人間として扱っていたのは明らかです。
またコヨミの言動も納得がいきません。「私のことはもういい。」と自分のことしか言っていません。晴人を説得したいなら、これまで助けてきたゲートの人たちを思い出させて、何をすべきかわからせるなどやり方はあったはずです。普通の人間としての記憶の無いコヨミに求めるのは酷かもしれませんが、コヨミは人形ではないと示す良いチャンスでもあったと思います。

・コヨミに関しては「笛木暦は既に死んでいる。」という事実に焦点をあて、今のコヨミとの違いを軽視したのが違和感の原因でしょう。大切な人の命と大勢の人の命、そこで悩むほうがウィザードのそれまでのエピソードと合っていたと私は思います。しかしながら、客観的に見ると私の考えのほうが間違っているのかもしれません。

・シリーズ構成のきださんが担当したメインエピソードに絞ると、殺されたのにただ無念そうに消えた笛木の死に様や後半の晴人とコヨミの描写、真由とメデューサの関係、空の偏愛、凛子とフェニックスなど、シリーズ全体で見ると一対一の関係性が中核となっています。こうなると、脚本ではなく人々のために戦うウィザードという私の捉え方に問題があるのでしょう。晴人にとって、人々が大した存在で無いのならば、コヨミが危機に陥れば他の全てを投げ出しても不思議はありません。晴人はなぜ戦っているのか、この認識のズレさえなければ、ウィザードを今よりも楽しめたのかもしれません。

【総合感想】
■アクション面は良かった
・マント捌きとキックアクションは最高でした!
普段キックで戦う分、剣や銃など手持ち武器も存在感が出てました。剣とキックのコンビネーションがほとんど無かったのは残念です。

・魔法も良かったです。変身前でも魔法で敵に対抗できて、頼もしい感じがしました。
変身後も戦闘のアクセントになっていて、オーズ以来の近年のプチ追加装備としてはかなり有効活用できてたと思います。前哨戦の必殺技代わりに使えるのが良いですよね。敵が逃げたり、敵に負けたりするときに使うと、必殺技の価値を下げずに戦闘を終わらせることができて、特撮の構成にぴったりだと思います。

■全体的に噛み合ってない…
・部分的には良いところがあるんですが、脚本を始め、全体的に噛み合っていない感じがする作品でした。
肝心のアクションもドラゴン化以降は動きづらい&販促の多さで良さを発揮できず没個性化し、脚本はビーストを優遇し過ぎて、コヨミを描き忘れたり、各脚本家間での温度差が激しかったり、引き伸ばしとも違うばらばらな感じが否めません。

■磨けば光る?
・集中的に描いたラスト3話は内容もまとまっていて面白かったです。
脚本をきださんだけに絞って2クールでまとめれば面白くなる気がします。
力の使い方を問う内容はライダーらしくて好きなので、次は全体をよく練り込んだものを見れると嬉しいです。

コメント

2 件のコメント :

  1. いつも楽しく拝見しております。

    自分はウィザードを本放送で全部見た後、こちらのブログの存在を知り、感想記事に全て目を通した上で再度全話見返したのですが、こうして各キャラの作品内での立ち位置やテーマ性を整理してから見てみると、こんなにも印象が違うんだなと分かり、とても興味深い体験ができました。途中の中弛みは相変わらずでしたが、本放送中に抱いていた、「なんでこうもこの作品にのめり込めないんだろう…」という疑問が、「そうか、ここをこうすればもっと面白くなったんだ」という風に解消できたのが良かったです。

    SNS等ではこちらの記事に関して批判的な方も多いようですが、これかもスタンスを変えずにいて下さることを願っております。長文失礼しました。

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    1. 温かいお言葉ありがとうございます。

      >こうして各キャラの作品内での立ち位置やテーマ性を整理してから見てみると、こんなにも印象が違うんだなと分かり、とても興味深い体験ができました。

      私自身もそういう体験をしたことがブログを書こうと思ったきっかけです。
      私の記事で一人でも同じような思いを体験される方が生まれれば、それだけで良いと私は思っています。

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