『トロピカル~ジュ!プリキュア』:第一印象
『トロピカル~ジュ!プリキュア』を6話まで見た時点での感想です。
各話感想
■1話
・1話はパっと見の印象どおり、明るく楽しいお話なのだなと思いました。
主人公のマナツは明るく前向きな一方、憧れの化粧品店には土壇場で尻込みして結局中には入らずに終わったり繊細なところもあるように見えました。
・相棒のローラもプリキュアのメインキャラでは珍しい「人魚の国の女王になる」という野心を持っている点がユニークでした。野心家だけあって行動力があって、マナツとは別のベクトルで活発だから二人一緒でもキャラを食われずに済んでいるのだと思います。
野心家設定だけだと印象が悪くなりかねませんがそこも上手くバランスを取ってありました。普段は「人間」と見下したような呼び方をしながらも怪人が現れたときには「何してるの! 早く逃げなさい!」と自分の身を省みずに言っていて、別の一面も描けていました。
■2話
・2話から第一印象は崩れていきました。
メインの話がプリキュアを優先すべきだというローラと部活など日常生活でやりたいことがあるマナツの対立でした。ケンカする回自体はプリキュアでは珍しくありませんが結末が予想外でした。マナツが一方的に譲歩して終わってすっきりしない終わり方だったのです。マナツが楽しみにしていた部活紹介を諦めることに納得したわけでもなく、代わりに何か成果を得たわけでもなく、ただ一方的に損する形になっていてマナツが可哀想でした。その原因になったローラに対する印象が悪くなりました。
お話としては回避する方法がいくつもあるのにわざわざこの形にしたことが不思議でした。
■3話
・3話は二人目のプリキュアになるサンゴの回でした。
個人的には困惑する内容でした。流れとしては「周りに合わせて自分のやりたいことを抑えてきた少女が主人公に触発されて自分を表に出せるようになる(その結果変身できるようになる)」というものだったと思うのですがノイズに感じる部分がいくつもありました。
・サンゴのトラウマは「昔みんなでチューリップを育てる授業があったときに自分は紫色のチューリップを選んだけど他のみんなはピンク色のにしていて自分だけ違うことを酷く後悔した」というものです。
これだけ聞くといじめられたから周りの顔色を伺う性格になってしまったのかなと思うのですが、実際には「周りの子は特に何も言ってこなかったんだけど」と自分が勝手に違うのが嫌だと思っただけだったとわざわざ付け加えられています。
かと思えば、サンゴと一緒にいる学校の同級生はやたらに同調圧力を感じさせる発言が多かったです。
サンゴの抱えている問題が周りから浮くことを恐れているからなのか、自分に自信がないから周りと同じにしないと不安なのか、2つの異なる問題が混ざっているように感じました。
・これで変身前の最終結論が「私は自分の”好き”を信じる!」なのでまたよくわかりません。好き嫌いの話は自信とはまた論点の異なる話だと思うんですが…
このサンゴの話に限らず、スタッフの頭の中にある過去未来現在にまたがるキャラごとの壮大な歴史を大前提にした話を見せられているような気がしています。これが「2クールの終わり頃に今まで脇役として出ていたキャラがついに変身する!」なんて回なら良いと思いますが、実質初登場の回でそんな文脈に支えられた話をやられても見ている側は話についていけません。
■4話
・4話は三人目のミノリのお話でした。
話の流れとしてはサンゴと同じく、マナツに触発されて意識が好転した結果プリキュアに変身するお話でした。大筋自体は問題ないのですが具体的なエピソードはこちらも困惑する内容でした。
・語られない”過去”を主軸にしていて何がどうなってるのか具体的には何もわかりませんでした。
どうやらかつて文学部に所属していて、書いたオリジナルのファンタジー小説を批判されたことがトラウマになっているようでした。そこまでならまだ理解できるのですが、その過去の出来事の細かいところまで重要っぽい感じでした。
やたらに「リアルじゃない」、「人魚なんて実在しない」と否定したがり、最終的には「人魚(ローラ)は実在する」、「ヒーロー(プリキュア)が目の前で戦っている」ことに奮起してプリキュアに変身していました。
妙に強調されていた点から逆算すると、「『リアルじゃない』はかつて小説を否定した人が言っていた言葉で、それがトラウマになってミノリはリアルかどうかにこだわるようになり、人魚であるローラを実際に目にしたことで固定観念が揺らぎ、そして自分の書いた小説の主人公のように戦うマナツたちを見て、自分の理想を込めて書いた小説の主人公のように自分もなりたいと抑えていた気持ちを昂ぶらせた」という流れのように見えました。
・初登場のキャラを30分間でそこまで理解させるのは無理があると思います。
描写が断片的すぎてサンゴ以上に話とシーンごとのミノリの感情が飛躍しているように感じました。こうでも仮説を立てないと「なんかよくわかんないけどトラウマがあって、よくわかんないけど解消されたらしい」という曖昧な印象で終わってしまいます。
・たぶん今後、小出しで過去の話を進めていくつもりなのでしょうが初登場回は、連続した話の「エピソード1」ではなく、その1話だけで「第一章」と完結するくらいのお話にしたほうが良いと思います。
「このキャラへ関心を引きたい」と「関心を持たれた話を続けたい」という気持ちが混ざって半端な形になっているように感じました。欲張らずにまずはキャラの魅力を紹介することに全力を注いだほうが良いと思います。
■5話
・5話は4人目のアスカのお話でした。
アスカまでミノリと同じく「過去に何かあった」キャラで唖然としました。二人も立て続けに過去を軸にしてどうするんでしょう…
ミノリ以上に抽象的で、部活(テニス部?)で何かあったこと、現生徒会長とも何かあったことがほのめかされているだけで具体的なことは何も描写がありませんでした。
あまりにも具体性がなさ過ぎて、どうしてマナツたちにそこまで仲間意識を持ったのか理解できませんでした。描写が少なすぎて「そんなにマナツの気遣い(メロンパン)が嬉しかったのかな?」と本気で考えてしまうくらいでした。
■6話
・6話はプリキュア部ことトロピカる部を創設するお話でした。
根本的な価値観についていけなくてきつかったです。「部活」である必要性がわかりませんでした。
テニスも卓球もコスメも人助けも全部やりたい!→「『今一番やりたいことをやる』部活」をする!
・ということになったのですが、どこに部活にする必要性があったのでしょう?
部員は内輪だけなのですから放課後に集まって勝手にやればいいと思います。作中ではゲームやお化粧は校則で禁止されてるからできないねという話をしていましたが、それならなおさらプライベートでやるほうが良いと思います。部活にする意義が見当たりません。
・部活であるメリットは
1)目的が同じ他人が集まる。
2)顧問や先輩などの指導を受けられる。競争相手が作りやすい。
3)大会への参加、練習試合など公的権威を必要とする行為ができるようになる。
4)部費。
5)遊びに行くというよりも部活というほうが家族への説明がスムーズになる。
といった点だと思います。
トロピカる部にはどれも触れられていませんでした。マナツが部活に憧れを持っているから部活をやりたいと言っているだけでそれ以上の理由が見当たりません。メタ的にも「プリキュアに部活をやらせろと言われたから部活ってことにしました」という以上の思惑が感じられません。
・登場人物の行動として違和感を感じたことが特に問題だと思います。
勝手な理想を抱いているマナツはともかく他の3人には部活にこだわる理由が見当たりません。部活でトラウマがあると思われるミノリとアスカに至っては曖昧な理由で済ませるわけにはいかないと思います。及び腰になるか、逆に今度こそ良い部活にしようとやる気を見せるかのどちらかになるほうが自然だと思います。
この手のノルマ消化は珍しくありませんが、やり方が明らかに下手で不安を感じました。
アニメーション
■土田豊監督
・以前からアニメーションではずば抜けていた土田豊さんが監督なだけあってアニメーションはとても良いです。アクションはもとよりキャラの表情や仕草も細やかで見ていて退屈しません。バトルの流れも牽制技やダウンさせてからの必殺技など流れがちゃんとしていて安心して見られます。
■監督だけ良くても…
・あとはどこまで続けられるか徹底できるかが課題ですね。プリキュアの作画リソースは年々酷くなる一方ですし、監督以外のスタッフでもちゃんと意味のある動きをできるかは不透明です。「監督回は面白いけどそれ以外はいつものプリキュア」なんて評価で終わってしまうと悲しいです。
■ノルマだから仕方ないけど
・敵から奪われたやる気エナジーを奪い返すのが毎回入るのはテンポが悪いです。
敵をダウン→必殺技で浄化、の前に奪い返すので必殺技への導入が台無しです。もしかしてと思って調べてみたらパッドに入ってるミニゲームでした。パッドの販促だから手順を省略することもできそうもありません。仕方ないですけど嬉しくはないですね。
ストーリー
■内容は問題ないが構成が悪い
・部活の件といい、訳ありキャラを多用する点といい、構成には難があるように感じます。
全体の構成はまだ先が長いので置いておくにしても、1話あたりの展開は粗が目立ちます。物語全体に意識が行き過ぎて、1話ごとの盛り上がりやキャラの見せ方を軽視しているように感じます。現状だと「あらすじにすると問題ないけど、30分丸ごと見ると不自然な展開や話の飛躍が目立つ」という印象です。
■方向性がちぐはぐなような…
・マナツや敵幹部が明るいのに対して他のプリキュアが基本的に暗めでギャップを感じます。
「物語の中核であるマナツたちはしっかり監修しているけど、それ以外は穴埋めでしかないから雑」みたいなズレが生じているんじゃないかと不安です。
このままだと
1)ギャップが埋まらずに広がり続けて違和感につながる。
2)暗さのほうに重きが置かれて、「能天気さなんて暗い過去を振り切るには役に立たないな」と主人公の存在意義が薄れる。
3)基本的に暗いのに強引に明るさで締めて、作品全体がご都合主義的で胡散臭くなる。
4)明るい方向で統一して「ミノリの過去とか無駄に重いだけで要らなかった。そんなことに時間を使うより『明日何しよう? 将来は何をしようか?』と楽しいことを考えたほうが良かったと思う」となってしまい、暗めの要素が邪魔に感じてしまう。
といった流れになりかねないと危惧しています。明るさと暗さ、どちらを徹底してもどちらかが犠牲になって上手くいきそうな気がしません。上手いことまとめていけるのでしょうか?
■ノイズが心配
・メインストーリーと関係ない部分でところどころに引っかかる描写があります。
部活内容を決めるところで読書に関してだけ露骨に退屈そうにしたり、メインキャラを持ち上げるために生徒会長が何も考えてないアホになったり、大筋には関係ないところで雑な描写が見受けられました。
避けようと思えば避けられそうな問題がそのまま残っている点は不安を感じます。小さなほころびでも4クールとなると大問題になるリスクがあるからです。
デザイン
■変身シーン
・変身シーンは順当に洗練されていってると思いました。
プリキュアは変身過程が退屈な傾向がありましたが、トロプリでは「チーク、アイズ、ヘアー、リップ」と手順をメイクに見立てて分割してアクセントにしてあります。流れ作業でやるよりテンポが良いですし、4人のデザイン上の特徴をそれぞれ分けたことで分割バンクもスムーズになっていました。この辺りはしっかり対策してあって感心しました。
■プリキュア
・一番目を引いたのはフラミンゴの網タイツでした。
プリキュアで網タイツは初めてだと思います。結構にセクシーですがフラミンゴがかっこいい系なのでバランスが取れていると思います。
・コーラルもふわっとしたスカートと大きな帽子がユニークです。従来だとあざとい枠は黄色のことが多かったですが、今回は紫なんですね。
個人的にはX(ペケ)バリアに期待しています。指を交差させると「ペケ!」という効果音と共にバリアになるというのはわかりやすくて可愛らしさもあって面白いです。体勢が制限される分、上手くシチュエーションを作ればバトルが盛り上がりそうです。
・サマーは順当だなーという印象です。動くと金髪ポニーテールが目立ってアクション向きだと思います。
パパイアは個人的には好みじゃありません。変身前のほうが可愛く見えます。目を強調するメイクが苦手なのでデザインは苦手です。
■怪人
・物を媒介にして生み出される怪人のヤラネーダも面白いデザインだと思いました。
名前どおりにゆるめな顔つきで一見するとユーモラスな印象ですが、やる気エナジーを奪うモードになると真っ赤な目がギョロっとむき出しになって一気に恐ろしげな外見に変わります。雰囲気はゆるめだけどやってることは深刻という今回の敵組織にぴったりなデザインだと思います。
個人的に気に入ったところ
■敵幹部
・敵幹部のキャラが気に入りました。プリキュアの敵幹部というと怪人を出すだけの存在になりがちですが、出番が少ないのにキャラが立っています。
主体性がある点が特に良いです。「やる気エナジーを奪う『後回しの魔女』率いる軍団」だけあって、やる気がありません。1話でも敵対している人魚を見つけても「ノルマは集め終わったから無視して帰ろ」とやる気のない態度が徹底されていました。敵側の本拠地でのシーンでも、料理人が「いつまで経っても伸びないラーメン」を作り置きしておいたり、がんばらない態度が一貫していて感心しました。
敵幹部がまとめて襲撃しない理由もラスボスが来ない理由も「面倒だから」で済ませられて展開もスムーズでそこも良いと思います。
・特に気に入っているキャラはエルダとヌメリーです。
エルダはとにかく可愛いです。見た目もむき海老みたいで可愛いですし、言動も「お茶を入れてやったわよ」なんて口調ながら自分の分は入れずにあげる分だけ持ってきたりしていて健気で愛らしかったです。膝の上に乗せられて頭を撫でられているシーンはほっこりしました。
・ヌメリーは敵幹部にはゆったりした余裕のある態度が珍しいです。だいたい大人の女性なキャラでもヒステリーを起こしたりしがちですが基本的に落ち着き払っています。追い詰めたら馬脚を現すタイプなのでしょうか。
全体の印象
■明暗がはっきりしてそう
・今のところ面白い部分と面白くなさそうな部分がくっきり分かれている印象です。どっちに比重が置かれるかで明暗がはっきり分かれそうです。個人的には明るく楽しい方向に行ってほしいんですけど、ストーリーは重めにしたがってる感じなんですよね…
私の期待と別の方向に行くことは構わないんですがストーリーに魅力を感じていないので今感じてる路線で行くのはきびしいと思います。
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