『仮面ライダーガヴ』最終回まで見終わって:総合感想

2025年9月13日
 仮面ライダーガヴを最終回まで見終わったので全体の感想を書きたいと思います。
*必要に応じて随時ネタバレがあります。


一言まとめ

『仮面ライダー』に忠実
久しぶりのまともなドラマ
香村さんの悪癖は、改善はしたけど残ったまま



『仮面ライダー』に忠実

「仮面ライダーとは人の心を持った化け物であり、正体と傷ついた本心を仮面で隠しながら悪と戦うヒーローである」
という正統派仮面ライダーをやったのがガヴでした。

・まず基本設定からしてハードでした。
「敵組織である”ストマック社”は異世界人のお菓子会社。
人間を材料に”闇菓子”と呼ばれる麻薬のような中毒性のあるお菓子を作り、闇菓子中毒になった人々を闇バイトとして使い人間界から人間を誘拐し続けている」

「主人公は異世界人グラニュートと人間のハーフ。
人間である母親は材料として誘拐された後にストマック社の社長だった父に見初められて主人公が生まれた。
敵幹部たちは主人公とは腹違いの兄姉にあたり、家庭を壊した主人公を憎んでいる」

「1話で主人公の目の前で母親が異母兄に殺される。
主人公も殺されかけながら逃げ延び、偶然たどり着いた人間界で人間たちを守るために同族であるグラニュートや兄妹たちと戦う道を選んだ同族殺しの物語」

1話時点で明かされる主人公周りの事情だけでもこの通りに重くて暗い内容でした。
特に最序盤はロードムービーを目指したというだけあって根無し草の主人公があてもなく放浪し、ヒーロー活動をしては化け物扱いされてその場にいられなくなり去っていく流れには善良なのに異形の姿から迫害される悲壮感とそれでも人間を憎まず戦い続ける強い正義感が感じられました。
1話のラストでバイクに乗って去っていく姿はまさに仮面ライダーらしい仮面ライダーをやるつもりなんだなと感じることができました。


人間だけど人間じゃない

・ハードな設定の中でも「人プレス」はとりわけインパクトがありました。
持ち運びと保存がしやすいように人間をアクリルフィギュアみたいな形に圧縮したものが人プレスです
。改造手術を受けた闇バイトたちはヘソの辺りにある第二の口”ガヴ”(メタ的に言えば変身ドライバー)から伸びる舌で人間を捉えるとあっという間にアクリル板に挟まれた写真のような姿に変えてしまいます。
まずホラーとして充分機能していました。人間が人プレスに変えられるのはほんの一瞬で、大半の被害者は救出された後ですら自分が化け物に襲われたことすら気づかないほどの早業でした。
人間に擬態した怪人はヘソにあるガヴを除けば人間と見分けがつかず、こんなのに襲われたらどうもしようもないという実感が感じられました。

・ドラマの面で優れていた点は「人プレスなら堂々と死体を映せる」ことでした。
規制が厳しい昨今ではたとえ悪役の仕業だろうと人を殺す場面を直接映すことができません。
でも大丈夫! 人プレスなら上半身と下半身を割かれて苦悶の表情を浮かべた人間の死体も思いっきり画面に映しても怒られません!
遺品である断片を握りしめて怒りを噛みしめる復讐者といきなり遺体を直視することになってショックを受ける周りの人を映しても平気です!
人間を文字通り物のように扱うことで悪役の悪辣さを描くこともでき、被害者を明確に描きつつも被害者のリアクションなどで余計な時間を取られず、撮影の手間も省けて、死体そのものとして映すこともできる。
序盤はいろんな使われ方を見る度に「こういう使い方もできるんだ」と感心しっぱなしでした。
死体を泡にする、人形にするなど抽象化する手法は過去にもありましたが、抽象化すると痕跡の人間っぽさも薄れてしまうところがネックでした。
その点、人プレスは中に写真が入っているため被害者が誰かもはっきりしていてゲストキャラの判別なども容易で、遠目でも見るからに人プレスとわかるシルエットもあってわかりやすさも兼ね備えていました。
設定的にも演出的にも優れていて、何がガヴで客観的に一番良かったかと聞かれたら私は人プレスと答えます。


真面目な”改造人間”

・設定面だと本当に”改造人間”が出てきたことも真面目だと思いました。
2号ライダーのヴァレンは純粋な人間に怪人の生体器官を埋め込む改造手術を行って変身する力を得た文字通りの改造人間です。
怪我をする度に「この身体じゃ普通の医者に行くわけにはいかない…」って話もするし、中盤では身体の負荷が大きくなり過ぎて変身する度に死にかけたりもする正統派な改造人間でした。
手術で得られた強さは充分に描かれてるものの、「自分もこうなりたい!改造手術受けてヒーローになりたい!」とはまず思わない凄惨さも描かれていました。




久しぶりのまともなドラマ

・ここ10年くらいはドラマと「イベント」を履き違えているライダーばかりだった印象です。
誰か死んだとか裏切ったとか「実は◯◯でした!」みたいなどんでん返しの回数だけ多くて、肝心要の出来事の間に挟まっているはずの登場人物の心情や葛藤はワープしていて理解不能な内容ばかりでした。
行動力や求心力と異常さを履き違えた作品も多く、登場人物の言動と人物描写がまともで「何の気兼ねもなく主人公を応援できる」こと自体もライダーでは久しぶりでした。


歌詞がしっくり来るドラマ

・ドラマがちゃんとしてるかどうかは「OPの歌詞がしっくり来るか否か」が一つの指標だと思います。
OPの歌詞を書くのは放送開始前なので、どれだけ最初からコンセプトやテーマが決まっていたかが如実に表れる箇所です。
ゼロワンからずっと基本的に作詞は藤林聖子さんのままなのに、OPの歌詞はどれも話が進むほどに「こんな話、だと最初は思ってたけど今は違うよなぁ…」と違和感が増えていくばかりでした。

・その点、ガヴは回を重ねるごとに「この歌詞はこういう意味だったのか」と解釈が深まっていく感じがしました。
おかげでおかしくなったのは藤林聖子さんでも私でもなく、ここ最近のライダーのストーリー自体の方だったと事実確認ができて安心しました。
「眩しくて戻らない瞬間 もう誰にも奪わせない そんな世界叶えるため 強くなろうとして」

「他人事には敏感 なのに自分事には鈍感 後回し気味 まるでどこか遠くに忘れ物したみたい」
この歌詞はわかりやすく主人公のスタンスを表していて、本編のお話を理解する手助けになっていたと思います。


個人中心のドラマ

・基本的には最初から最後まで「主人公 ショウマの物語」だったと思います。
悲劇や悪党も有りましたが基本的には引き立て役で主人公の持つ善性が物語の中核でした。
シリーズ構成の香村さんは戦隊やプリキュアでもメンバー全体ではなく個人を中心にしたお話が多かったので個人中心のライダーの方が合っているだろうなと思っていましたが、実際そうでした。今まで見た中では一番まとまりが良かったと思います。

・人物の地に足のついたリアリティもライダーとは相性が良かったです。
主人公のショウマはハーフであるがゆえの人間でも化け物でもない生まれの悲哀を背負った好青年でした。
悲劇的な生い立ちながらも目の前の他人を救おうとする正義感がある一方、それは自己肯定感の低さから来る自己否定でもあるものとして時には否定的に描かれることもありました。
主人公はなぜ戦うのか、戦うことをどう感じているのか、悲喜こもごもがその都度描かれていき、成長や失敗も含めてしっかりとした掘り下げがありました。
既に何人も人間を手にかけた敵を追い込んだ後でさえ
「…どうする? 二度と闇菓子に関わらないか、この場で俺に倒されるか」
と問いかけてから倒す、優しさと決意を兼ね備えた決め台詞は端的にガヴの作風を表していると思います。



香村さんの悪癖は、改善はしたけど残ったまま

香村純子さんのシリーズ構成作と言えば、
「1クールと4クール以外は話が進まない中だるみ」
「敵幹部を持て余して終盤になってから1,2話ごとに次と次と立て続けに片付けがち」
「内容はしっかりしてる一方、展開が少なめで話数を持て余しがち」
といった辺りがよくある課題でした。

・残念ながらガヴでも欠点は無くなりませんでした。
主人公やキャラ周りは終盤までちょこちょこ有ったのですが、敵周りの進展と掘り下げの少なさは後半のやることの無さとして問題になりました。
最強フォーム初登場もあった36話の盛り上がりがピークで、残っている敵中心に話を回し出した4クール目はあとは敵を倒すだけの消化試合という感じで全体の中で一番盛り上がりに欠けてしまいました。
全体としてはこれまでのシリーズ構成作よりは向上していると思いますが、悪癖が消えたと言えるほどには良くなってはいません。






【良かった点】

ストーリー

・シリーズ構成が香村さんなのでストーリーはいつもどおり良かったです。
繊細な人物造形を中心にそのキャラに合った言動でストーリーが繰り広げられていって最初から最後まで安心して見ることができました。
「え? なんでそうなるの?」と理解しがたい言動に戸惑ったり、「この前言ってたことと食い違うんだけど?」と意味がわからなかったり、
そういうストレスが無く、このキャラがこういう状況ならそうするだろうなと自然と納得できる内容でリラックスして見れました。
全体の感じもいつもどおりで、主人公たちの善性を肯定し、悪役は断罪されるべき悪として同情を挟まない作風でした。
小さくまとまりたがる作風も相変わらずだったのでボリューム不足を感じる部分もありましたが、主人公のドラマとして主人公が何を感じ、何を思い、どう行動したかを中核にまとまっていた点は従来のシリーズ作よりも完成度が高かったと思います。

・戦隊やプリキュアだと
「戦隊であるからには全体としては明るく楽しい雰囲気でなくてはならない」
「プリキュアであるからには敵も救わなければならない / 私生活でも自己実現を果たさなければならない」
みたいなシリーズ作としてのノルマが香村さんとは相性悪いように感じることがありましたが、ライダーの場合は元々個人の生き様や心持ちを中心にしていて決まった主人公像や大業を成し遂げなくてもいい作風だったのですり合わせの問題を感じることが少なかったです。


掴みは完璧

・最序盤の掴みは特に良かったです。
行き倒れた主人公がゲストの善意によって助けられ、人々を守るために戦った結果その場にはいられなくなりまた彷徨うことになる。しかしそれでも主人公の善性を理解してくれる人はいる。
わかりやすいフォーマットのお話と香村さんらしい細やかな描写がマッチしていました。
大筋は基本的に似た展開を繰り返すことで「ガヴはこういうお話なんだな」と1話から全体像がはっきり伝わってきましたし、大筋が同じだからこそ
「今回は助けてくれた人が悪人で主人公の力を利用とする、人の悪意にも触れる話」
「今回は自分のせいで親切な人を巻き込んでしまったと責任を感じる話」
など各話の違いや話の焦点が際立っていました。

・ロードムービー調の展開は5話で終わりましたが、全体の構成としてはここが一番完成度が高かったと思います。
悲劇からのスタートはわかりやすい戦う理由になって序盤の進行がスムーズな一方、明るいムードや前向きな考え方に転向するのに苦労しがちです。その点ではガヴはかなり上手くやっていたと思います。

・放浪からの転換点は主人公が悩むのを止めて開き直り気味でやや急ではありましたが、そこまでの過程で「善良な主人公が報われてほしい」と思えるようになっていたので一箇所に落ち着く流れは心理的には抵抗は感じませんでした。
「主人公が好きになれる造形になっているか」という点は大きいなと改めて感じました。ここ10年くらいのライダー主人公は私にとっては「どっちかと言うと嫌い」が多かったので余計に眩しく感じました。


ギスギスは無し

・アジトである”何でも屋”で住み込みで働くようになって生活と基本的な話の流れが落ち着いてからは、ライダーでお馴染みの2号、3号ライダー登場からの対立や関係構築がメインになっていきました。この辺も比較的良かったです。
2号ライダーのヴァレンこと”絆斗”(読み方はハント)は主人公とは真逆で改造手術を受けて変身できるようになった普通の人間でした。
こっちはこっちで
幼い頃に母親を化け物に拐われる。
グレていた頃から自分の面倒を見てくれた育ての親を殺される。
復讐のために怪しい科学者の実験を受けて死にそうになりながらも化け物を倒せる力を手にし、全ての化け物を殺そうと心に決めた。
という壮絶な境遇でした。
人プレスというマイルドな形で恩人の死体を見せられる視聴者にとってショッキングな出来事から始まり、見るからに痛そうっていうか死にそうな改造手術を受けて、そこまでしてなったライダーがわりと弱いといろんな意味でも壮絶でした。
しかも変身するのに必要な消耗型の変身アイテムを自力で生み出せないため、定期的に主人公から譲ってもらわないといけない事情まで抱えていました。
主人公は善良でハーフではあるといえ半分は化け物の血が流れているので正体がいつバレるか、バレたときに戦うのか戦力のために妥協するのか、お互いに変身前の正体を隠したまま共闘する1クール目のハラハラするポイントでした。

・弱いこと、知識で劣ること、頭もあんまり良くなく直情径行で性格もまぁまぁ愚かであること。
絆斗のハンデはいくつもありましたが、それでも必死に戦う姿は善良さと危うさを感じるもので主人公との関係性も含めて主人公とは違った良さがありました。

・それでいてライダーでよくある内輪もめやギスギスはほぼ無く、共闘関係はスムーズだったのでストレスや回り道する展開はありませんでした。
その代わりにお互いの素性は知らないまま正体バレし、既に顔見知りだったことが判明した場面はややあっさりでした。2人とも物わかりが良いし、揉める必要性もないので特にトラブルが起きません。

・この辺のあっさり感は論理的でスムーズな展開やストレス展開の無さと引き換えに今後も続きました。
敵側にライダー対策として用意され、最初は敵として現れた3号ライダーのヴラムも同様でした。販促の都合もあってか、出てきて数話で味方化しました。
その後の2号ライダーの絆斗が主人公の素性を知ったり、母が既に殺されていた事実を知ったりして主人公と距離を取っていたときも、
解決自体は「主人公は悪くない。悪いのは誘拐したやつらだ」や「今やるべきことはこれ以上被害者を増やさないことだ」みたいな論理的な正論が基本でした。
この辺は割り切りや思想がはっきりしているので視聴者の好みは分かれると思います。
そこに時間をかけてもギスギスや内輪もめに時間をかけるだけになるので私は無い方が良いと思ったのでマイナスには感じませんでした。
敵幹部の掘り下げなど敵側の描き方も同様で取り扱うか否かがはっきり分かれていました。


メインキャラ周りの人物描写は最後まで良好

・力を入れていた味方側の人物描写はしっかりしていました。
最初から最後まで成長や変化はあってもブレることはなく、変化する経緯やきっかけも自然でした。
主人公は基本的には善良なままでしたが、人間社会に慣れたことで賢さや強かさも見せるようになりました。
時には相手の反応も考慮に入れた驚くほど大人な対応もできるほどの人間としての成長を見せ、他人だけでなく自分の幸せも考えられるように変化していきました。

直情径行や愚かさが中心で成長が少なくややワンパターンだった絆斗も最後には進歩を見せ、ゆっくりではあっても着実な成長が見られました。

3号ライダーのラキアはストレートな復讐者だったので全体の展開は少なめでしたが、香村さんらしい控えめだが実感のある描写が一番活きていました。
口癖の「ダルっ」が照れ隠しだったり敵への憤りを表すものだったりその時々で意味合いが異なっていたり、敵対してたときの行動が本人にとって後で後悔になって響いてきたり、振れ幅は少ないものの寡黙なキャラですがしっかりとした感情の動きが感じられました。
こういう「みんな明るくて前向き!」みたいな画一的なメンバーではなく、それぞれに性格も考え方も異なるメンバーの関わりが描かれていた点はライダーらしさを活かした群像劇にもなっていて良かったです。

・主人公たちの物語としては私は満足でした。
結末も問題や課題はまだ残っていて両手を上げて喜べるハッピーエンドではありませんでした。
でも主人公たちが物語の始まり時点よりもずっと前向きに楽しそうに歩めている様子を見ているだけで「これで良かった」と思えました。
世界がどうのとかじゃなく、そういう個人単位での気持ちの良い結末が似合うお話でした。


お飾りじゃないモチーフ

・ストーリーと言えば、モチーフである「お菓子」の扱い方も良かったです。
ライダーのモチーフというと大体は形骸化して、ほとんどが「何でもできる不思議パワー」や「主人公たちの力の源」くらいの扱いか、もっと悪いと「デザインモチーフ」や「設定用語」以上の役割が無いことが多かったですが、ガヴの場合は結構ストーリーに組み込まれて小道具として機能していました。

・ガヴでのお菓子は「無くても生きていけるけど有った方が楽しい物」として意義が明確に示されていたと思います。
作中でも3話でお菓子の力で戦う主人公でさえ「ちゃんとした食事は別に取らないとダメ! お菓子だけだと倒れちゃう」と明言されているくらいでした。
味方側でも「甘いものは苦手」な絆斗は最後まで積極的にはお菓子を食べなかったり、人外でそもそも食生活が根本的に違うラキアも思い入れのできたプリンくらいしか食べなかったり、あくまでお菓子は主人公が好きだから食べてる物で万能な物ではないと線引きされていました。
この辺の生真面目なバランスも香村さんらしい描き方だと思いました。

「お菓子を食べても変身アイテムを生み出せない。どうしてだろう?(2号ライダーとの不和で気落ちしてたことが原因)」と悩んだり、
今現在も侵略を進めている強敵に勝てる力を必要としている切羽詰まった状況だからこそ
「戦うためにお菓子を食べてたんじゃない。お菓子を食べること自体が楽しいから食べるんだ! その喜びが戦う力になるだけなんだ!!」と真理に気づいたり、
母の仇であり幼少期から主人公を虐げてきた宿敵と決着をつける前に主人公にとっての幸せの象徴として啖呵の裏付けにもなったり、お菓子がストーリーの流れに応じて組み込まれていました。
最終回でも主人公にとっての明るい未来に向かう象徴として最後まで機能していました。

・一方の敵側では麻薬のような中毒性がある”闇菓子”が対照的に使われていました。
闇菓子は食べるとハイになって中毒になっていく以外には何の効果もありません。
怪人が強いのは元々強靭な肉体を持った種族だからですし、「追い詰められた敵幹部がリスク承知で闇菓子を食べてパワーアップ!」なんて起きません。
有害なだけだから敵幹部は一口たりとも食べることがありませんでした。
あくまで他人に食べさせて使い捨ての奴隷に仕立て上げるための道具に過ぎません。
人間の命と幸せを材料にして作り出し、中毒になった同族を死ぬまでこき使う「搾取」の権化みたいな存在でした。

・内容自体はわかりやすくシンプルなものでしたが、お菓子というイメージに沿った内容のままで、しっかりとストーリーに組み込まれていた点は評価に値すると思います。
主人公のショウマがいないガヴと同様に、お菓子がモチーフでないガヴも想像しづらいと思いました。




アクション

・アクションは全体的に素晴らしかったです。
アクション単体の出来栄えは言うまでもなく、販促やバリエーション、目新しさなど、どの部門でも水準が高かったです。
フィニッシュの必殺技ですら「はいはい、いつものパターンね」みたいな感じがなく、今回はどういう風に決めるんだろう?とワクワク感を保てました。

フォームチェンジのバリエーションの豊富さ

・個人的には各フォームや武器の特色の出し方や活用できるシチュエーション作りが最高でした。
お菓子という外見の差異の大きさに見合った特徴付けがどのフォームにもされていて、強い弱い以前に「面白い」という販促番組では一番重要な特徴付けがなされていました。
1クール目に登場するフォームチェンジ一つとってもどれも使われ方が凝っていて、新フォームだけでなく既存のフォームでも毎回ワクワクできました。

基本フォームのグミは受けたダメージが一目でわかる装甲板部分がグミでできた弾けるアーマーでかませ犬役が多くなりがちな基本フォームに合っていました。

ポテチは砕けやすいけどザクザク切れてすぐ生え変わる剣で、ときにはわざと折って破片を飛ばして攻撃して遠距離攻撃も可能でした。
ポテチはポテチでも激辛味なら炎の剣になったり、2号ライダーのチョコでコーティングしたら強度が増したり、お菓子の形を活かした派生形も楽しかったです。

マシュマロはふわふわ浮いたり飛び出る擬音が実体化して楽しげで、銃を使うチョコはチョコでできた弾丸が相手や壁に当たると弾けてチョコの弾痕が残るところがユニークでした。

飴は硬さとカラフルさに着目し、最も重装甲なボディとガトリングにミサイルなど多彩な重火力に仕上げられていました。
アクションできない鈍重な造形でしたが、重装甲を活かして致命傷を避けるためのここぞというときの防御手段として活用されている点も感心しました。

・強化フォームは登場までのドラマもあってより一層盛り上がりました。
母親との思い出の品であり、異世界しか知らない主人公は実物を見たこともない、まだ見ぬ幸せの象徴だった「ケーキ」。

2号ライダーとの不和に悩み、メンタル由来の体調不良で戦う力が出なくなった主人公に居候先の人間から向けられた優しさの象徴である「アイスクリーム」

同族の発明家である伯父が身を削って作った最強フォームに使う「ゴチポッド(グミの詰まった瓶)」は使用する度に変身アイテム100個を消費する主人公の集大成であり、完成した後も時間稼ぎのために仲間が捨て身で戦ったり、主人公が自分が戦う理由を改めて考え直しきっかけになったり、複数のドラマがありました。

・アクション面でも最強フォームであるオーバーモード/マスターモードはゴリラのようなパワー型と高速で動けるスピード型というシンプルな使い分けの切り替えながら、その特徴を活かした各モードの動き方と瞬時にモードを切り替えられる特性を活かした「スピード型で素早く懐まで潜り込んでインパクトの瞬間にパワー型に切り替える」スタイリッシュな立ち回りがとりわけすごかったです。


これこそ販促番組の意義

・販促と言えば、「ゴチゾウ」に触れないわけにはいきません。


*画像は仮面ライダーおもちゃウェブより引用。

ゴチゾウはベルトにはめて使う変身アイテムであり、主人公がお菓子を食べると生まれてくる”眷属”で、マスコットでもある不思議生物です。
存在としてはありきたりで全然珍しくありません。
デザインも個人的には良いと思いません。箱状の可愛い形態から箱を開くとモンスターな真の顔と腕が飛び出してくる!、というコンセプトのようですが怖さは足りず、可愛いと怖いのシナジーも薄く中途半端だと思います。

・そんなゴチゾウが本編を見ていると魅力的に見えてくる点がとても素晴らしかったです。
ちょこちょこ動いて可愛くて、「グミ~」など鳴き声レベルでしか話せないのに仕草とイントネーションで何となく意思が伝わってきて愛くるしく、非戦闘時にも偵察で活躍し戦闘中は弱いのに果敢に立ち向かい「俺を使え!」と主人公にアピールしたりもする有能っぷりでいつでもどこでも八面六臂の大活躍でした。
冴えなく感じたデザインとは裏腹に1話を見終わる頃には「これは売れそう」と思うほどの魅力がありました。実際、かなり売れたみたいで納得しかありません。
これこそまさに販促番組の意義という感じがしました。見せ方次第でこうも変わる良い実例だと思います。




【残念だった点】

■敵側のドラマ不足

・敵側のドラマや掘り下げ不足は目に見える欠点でした。
悪側の事情や私情など正当性や共感につながることは避けたい傾向が香村さんに有るせいか、敵側はほとんどドラマがありませんでした。
敵側の展開もシンプル過ぎてワンパターンでした。どのタイミングでもやることは「人間をさらって闇菓子の材料として殺す」だけだったので展開に膨らみや意外性が乏しかったです。

・これはシンプルに面白みに欠けました。
一番魅力のある敵がラスボスではなく2クール目の敵だった辺りが象徴的です。
2号ライダーの開発者であり、主人公たちとは途中から敵対することになったマッドサイエンティストの酸賀の方がキャラクターとしては魅力的でした。
最初から怪しかったとはいえ味方から裏切る展開に加えて、実は絆斗が改造手術を受けるように仕向けるために恩人を惨殺するように手回しした真の仇であり、その真の目的は何らかの原因により失った我が子を二度と失わずに済むよう最強の肉体で蘇らすことだったという背景までありました。
ガヴの中では唯一盛り上がった悪役であり、悪役として盛り上げるにはこれくらいドラマが有った方が楽なのは火を見るより明らかです。その点では明らかに構成に不備がありました。

3,4クール目の間延び

・3,4クール目は主人公側のドラマがだいたい片付いた後の敵側中心の展開でストーリーに間延び感がありました。
敵が動かないと話が進まないのですが、敵側の作戦はマンネリでドラマも薄いので進展が弱かったです。
「敵の作戦で大量誘拐!→取り戻した!」→「また新しい作戦でもっと多くの人が拐われた!」の繰り返しがグロッタ、ニエルブ/ゾンビ酸賀→大統領→ランゴと4回も繰り返されたのはワンパターン過ぎました。
悪行のスケールは着実に大きくなっていたものの、序盤からインパクトのあるダークさで飛ばした分だけ天井も近くてショッキングな展開だけで乗り切るのは困難でした。

チェーホフの銃

・終盤は引っ張ってきた要素の肩透かし感が強めだったことが余計にマイナスに働きました。
最初から出ているのに1人しか倒さずに残してきた幹部勢は特にドラマも因縁もないまま4クール目に代わる代わる倒されていき、メインストーリーが全体的に消化試合ムードになってしまいました。
何か企んでいそうな参謀はあまり行動がないままケツに火が点いて破滅することになり、もっと状況をかき回すかと思った途中登場のわがまま悪役令嬢と1クール目で片割れを殺された双子幹部のコンビも思わせぶりな素振りだけで特に結果を伴わないまま最後の出番を迎えてしまいました。

・引っ張るからには何か有るのかな?と思っていたら大したことが起きないのでは期待はずれと言わざるを得ません。
実際には最初から使うつもりは無かったのでしょうが、視聴者目線だと活かしきれなかった素材に見える分だけもったいなさも感じます。
幹部のドラマをやるつもりが無いなら無いで構いませんが、1クールごとに幹部を倒していくなり、適宜片付けていく方が良かったと思います。

最強フォームにキャラのドラマのピークを持ってくる構成の是非

・そもそもなんで終盤でやることが無くなったのかというと、各ライダーの最強フォーム登場回にキャラのドラマのピークを持ってきたことが大きな要因だと思います。
主人公:34話&36話で1モードずつ。
3号ライダー:40話。
2号ライダー:28話。
と、登場タイミングの都合で3クール前後でキャラのドラマがだいたい終わってしまっています。
2号ライダーに至っては28話ともっと早いので後半は他二人のドラマのサブとして動くことの方が多いくらいでした。

・「最強フォーム登場回が全体で一番盛り上がる構成にする」という発想自体は販促番組としては適切だと思います。それ以降の展開が弱いことが問題なだけです。
実際、2号ライダーの絆斗は37&38話で母の仇との遭遇、最終回で一展開もあったので見せ場に関しては相対的にはバランスが取れた方でした。

あるいはメインのボリューム不足

・ただ、真に必要だったものが悪役のドラマやピークの持っていきどころだったのかというとその点はやや疑問もあります。
少なくとも悪党には見せ場も情状酌量の余地も残さない実際のガヴの方向性だと「悪党にもこうなる理由があった」みたいな正当性を感じさせる話は作るわけにはいきません。
仮にやったとしても「でもこいつ主人公たちの母親とかを身勝手な理由で殺してるんだよな…」「同族や兄妹まで死に追いやってまでする正当性があるとは思えない」で終わってしまうでしょう。仮にやったところで面白くなる気はあまりしません。

・終盤はどうしても戦い中心になる以上敵にもドラマを持たせる方が効率的な構成だとは思いますが、他にも広げられる余地はいくつも有ったと思います。
私にとっては敵側の話が進まなくても主人公や仲間のドラマは楽しめるままでした。主人公や仲間の方にイベントやエピソードなどボリュームを増やせれば終盤の展開の薄さという問題は克服できたんじゃないかと思います。

・ショウマも絆斗もラキアも話を広げる余地はまだまだあったと思います。
特にラキアは幸果に過去を知られたくないと言い出すまでの人間に愛着を持ち出す過程やデンテとの関係も同じショウマに肩入れする身としての共感、人間を守ると決めた強化フォーム入手回後の人間全般との関係や変化など、いくつも描く価値のある話が有ったと思います。
仮にライダー3人にドラマを展開する余地が無くなったとしても、幸果中心の話でも1,2話は余裕で埋められたでしょうし、1話の子供の再登場みたいにゲストを交えてメインキャラの掘り下げをする手も有ったと思います。
敵幹部や陰鬱な展開など思わせぶりな要素が実らない肩透かしがあったとしても、主人公たちの描写やドラマさえもっと多ければそれで概ねカバーできたんじゃないかなと思う気持ちの方が私は強いです。
今までの作品から考えると短所(悪役)を伸ばすよりも、長所(メインキャラ)を伸ばす方が香村さんのやりたいことには合っている気がします。


デザイン

・個人的にはベルトや基本フォームや最強フォームのデザインは基本的にはかっこいいと思えないまま終わりました。
正統派かっこいい系のブリザードソルベやミリタリー調に落とし込んでるプリンカスタム、ガヴとヴァレンの各種フォームチェンジなどお菓子をデザインに落とし込んであるフォームの方が評価が高く、基本フォームや派生形の最強フォームほどデザインにピンと来ませんでした。
ベルトは獅子舞みたいで、身体はグミっぽくぷよぷよしてるけど顔はカンガルーかコウモリかという感じではっきりしない印象のままでした。

・ただし、本編内でのデザインの物語への落とし込みは悪くありませんでした。
よくわかんない見た目が見るからに異形な感じに見えたり、変身時のメリーゴーランドで流れてそうなファンシーなBGMは殺すか殺されるかのシリアスな状況にそぐわず逆に状況に流されない独特な雰囲気を醸し出していたり、本編の内容とはマッチしているところもありましたがそれでも単体だと首を傾げる印象のままでした。

・見終わった後でも全体としては「方向性が迷子になってる」という印象でした。
初期案だと主人公も野性的なイメージだったそうで、必殺技を撃つ前の屈んで足を後ろに下げるポーズや宣伝文句の「お菓子も悪も俺が食べ尽くす」がその名残のようです。
本編を見ると1話の時点で野性的とか食べ尽くすとかそういうイメージは主人公を見ても全く湧いてこないので脚本段階では既に捨てられている要素だったのだと思います。デザインに残ったのが不思議なくらいですね。





【全体感想】

私なりのテーマの推測

・いろいろ考えた結果「気持ちの押し付けは良くない」という考えがストーリーの根底に有ったのかなと思いました。
ショウマの「どうする?」を筆頭に主人公側は相手に選択を委ねることが重視され
逆にストマック家を筆頭に敵側は「自分の考えや望みを押し付ける」傾向が有るように見えました。

・実例を挙げていくと、
主人公側では「どうする?」の他にも、駄菓子屋の伯父さんに真実を告げないことにしたショウマの選択以外にも絆斗やラキアの復讐も選択の一環だったと思います。
絆斗の仇である和菓子屋さんのグラニュートは絆斗の恨みが消えたわけではないものの、(復讐という自分の気持ちの押し付けを実行すれば)和菓子屋さんの親子が悲しむという理由から断念されました。
ラキアの場合は「自分の復讐心よりもコメルなら何を望むか」という観点から復讐よりも人々を守るために戦うことを選びました。
最終回の絆斗の行動も同様の思想だと思います。最初は「もう戦う必要はないからグラニュート界に帰れ」と呼びかけた一方、ジープたちが復讐を望んでいると答えを聞いてからはそれ以上何も言わず望みどおり相手をすることを選んでいました。またジープが死に、リゼルが戦意喪失してからはリゼルを倒そうともしませんでした。

・逆に主人公側で物語に否定的に扱われた例はショウマの大統領襲撃&そのまま大統領になって帰ってこないプランがありました。
人間界防衛のためのプランとしては一理有るのに作中のストーリー展開では明確に否定されていました。
ショウマの独断で周りの気持ちを考えずに「こうするのが一番良い」と決めたことが否定される所以だったのだと思います。

・敵側に関してはキャラの自分勝手な振る舞いは改めて語るまでも無いでしょう。
悪の象徴である闇菓子は洗脳の道具であり、製造工程も「闇菓子の質を上げるために被害者を幸せにしてから捕獲する」など相手のことなど考えない悪辣さの塊です。
ストマック家のメンバーは誰もかれも「ストマック家のため」だのと言いながらも実際には自分の都合で動いていて兄妹同士では内心反発し合い、結果としてはお互いに相手を破滅へと追いやることになっていました。
大統領たちはストマック家よりもっと狭い親子二人の関係に終始していて、他人を踏みにじっておきながら「価値の無い物に利用価値を与えただけ感謝してほしいくらいだ」とうそぶいていました。
酸賀も真の目的のために被験者に嘘をつき時にはマッチポンプで実験を受けるように追い込むなど人間でありながら自分の都合だけを優先して相手のことを1ミリも考えていませんでした。
ストマック家絡みのそもそもの元凶である父親のブーシュはショウマにもランゴたちにも自分の気持ちを押し付けるばかりで誰からも恨まれていました。
逆に基本的に考えを押し付けずに相手の長所を見出す傾向のあったデンテは裏切り者であるにも関わらず、ニエルブにもグロッタにもショウマにもそれなりに好かれていました。
敵側で物語に肯定されていた例はジープの最期だと思います。なぜシータが自分を庇ったのかその意味を理解したことで敵の中では唯一満ち足りた最期を迎えることができました。

・OPに「分け合える」というフレーズが入っているわりに作中では一緒に同じ物を食べることはあっても人数分用意されていて、こういう食べ物ネタでありがちな一つの物を分け合う場面がほとんど無かったことにも意味を見出すべきなのかなと私は思いました。
分け合えるというのはあくまで「可能である」という話であって相手には断る権利も有る。だから押し付けがましさを出さないためにそういうシーンを入れなかったのかなと思い至りました。
お菓子がモチーフでありながら甘いものは苦手な絆斗が最後まで甘いものを好きにはならなかったことも、ラキアが基本的には石を食べ続け仲間からラキアへのプレゼントも石中心だったことも、相手を尊重することを重視する考えが根底に有ったからなのかもしれません。
ショウマの大統領に成り代わるプランといいショウマと駄菓子屋の伯父さんの距離感といい、たとえ好意であっても相手に押し付けるべきではないという思想を節々から感じました。
ラキアだけが最後は離れ離れになった因果は独断でみんなが望まない扉破壊を行ったことへの罰だったのかもしれません。

・こういう気持ちの押し付けを否定する思想が根底に有り、
「不幸(恨み、トラウマ)は自分の中に押し込め、幸せを求め他者と分け合うべきである(幸せも不幸も、奪っても押し付けてもどっちもダメ)」
というお話にしたのがガヴのストーリーだったのかなと私は思いました。
ストマック家の父や祖父の話がほとんど無かったりランゴの目標が浅かったのも、悲惨な過去を持つショウマを筆頭に未来志向で過去に何が有ったとしても過去に縛られること自体を良しとしない気風の結果だった気もします。

オーズに似てる?

・全体の構造を考えているうちに、健全な欲望(お菓子)、邪悪な欲望(闇菓子)といった対照性や主人公の造形はオーズと似たところがあるようにも感じました。
ただ、ガヴの場合は他者にまつわる感情や関係の方を重視している感じがありました。
ガヴは独善性の否定や他人を幸せにできるかといった健全性の話だと思います。
それに対してオーズは個人単位で完結していて「こうするべきだ」「自分にはこれしかできない」といった必然性や必要性ではなく
「自分が真にやりたいことは何か」「自分はどうありたいと望むか」というエゴの話に収束していった点でガヴとオーズでは方向性が違う気がします。


キャラの印象

ショウマ/仮面ライダーガヴ
・基本的にガヴのストーリーそのものがショウマの物語なのでこの項目で改めて書くことはあまりありませんでしたが、ショウマは見ていて気持ちの良い主人公だったと思います。
前向きだけれども暗さや葛藤がないわけではなく、「ショウマに任せておけば大丈夫!」とは言い切れないほどの危うさもあって、まさに仮面ライダーらしい不完全なヒーローだったと思います。

・お菓子に夢中になる様子など子供っぽい態度には序盤は不安を感じることもありましたが、真面目なときにはそういう態度は挟まず、あくまで日常の楽しみとして存在していたのでむしろショウマの数少ない楽しそうな場面になり一服の清涼剤として機能してくれました。


■絆斗/仮面ライダーヴァレン
・絆斗はわりと貧乏くじを引かされがちな立ち位置だったと思います。
他二人に比べてお馬鹿担当と言うか、「絆斗だけ反対してショウマもラキアも幸果も賛成してる」みたいな場面が多めだった気がします。
感情的になりやすいことも、論理的思考が比較的弱かったことも、そういう役割のキャラもいないとお話が滞りやすいので必要な役割なのですが俯瞰的に考えると可哀想なポジションでした。
この立ち位置でそれほど視聴者からヘイトをかっていないことは特筆するべきことかもしれません。

・再生怪人で物理的にグダリ気味だったビターガヴ編を筆頭に絆斗の話の大半がグラニュート全般に復讐するかしないかの悩みで回っていて絆斗周りの展開に飽き気味なこともありましたが、終わり方はメンバーの中で一番爽やかだったと思います。
絆斗が自分で思い至ったことして「許せはしないが殺す必要もない」という線引きができるほど気持ちの整理がついたことは絆斗にとっては大きな進歩だと思いました。
取材相手の言い分をあっさり信じていた1話頃の絆斗よりもずっと記者としても成長したと思います。
経緯全体を踏まえれば「ブラックでもビターでもなく白黒混ざったチョコフラッペ」として落ち着いた、モチーフに合った物語を通ってきたキャラだったのかもしれません。


■ラキア/仮面ライダーヴラム
・「ダルっ」の使い分けといい、一番香村さんの良さが出ているキャラだったと思います。
明らかに筆も一番乗っていて台詞の切れが飛び抜けて良かったと思います。

・メインの展開は恵まれていない方だったと思います。
敵からスタートして加入はやや急で、加入直後にビターガヴ編に入ってラキアの扱いは棚上げ気味でした。
強化フォームも40話までゼリーしか無く、エージェント以外の勝ち星もそれほど多くありません。
それでもこれだけの人気と印象に残るキャラになったことには香村さんの腕前を感じます。

・細かい感情描写が多かった分、ラキア由来の毒が作戦に多用されるようになってからの言動が個人的には物足りなく感じました。
「幸果に闇バイトだったことを知られたくない」とか言い出したこともそうですが、その辺の途中経過をもっと描写してほしかったです。後半は時間も持て余し気味だったので挟む余地は有ったと思います。
人間界を好きになったなら「人間界でやりたいこと」や「人間として暮らしていくプラン」とかを入れておいたなら、最後のドア破壊とグラニュート界に取り残された心境により深みが出たと思います。


■幸果
・一言で言うと「おやっさん」でした。見た目はギャルなんですけども。
1話時点で人格が完成されていて明らかに訳ありの主人公たちを受け入れてくれ、正体を知った後も変わらぬ態度で積極的にサポートしてくれる。
わかりやすくおやっさんなポジションのキャラでした。
最近だと似たような立ち位置でも基本的に役に立たないか裏切るかのどちらかだったでの頼りになるおやっさんポジションは久しぶりですね。

・キャラクター単体としては過不足ない整ったキャラだった印象です。
過去を感じさせるところもあるけれど具体的にはほとんど触れず、でも前向き思考なので過去自体は気にはならず。
サポートや日常生活では存在感はあるけど、メインストーリーでは抑えめであくまでサブキャラに留まる。
ノルマという意味ではなく正しい意味で「必要充分」という印象のキャラでした。

・その分、面白みや意外性などはありませんでした。
でもサブキャラなので出しゃばらないくらいの方が良いと思います。
個人的にはヒロインとかそういう扱いにならなくて安心しました。
なっていたら全体のバランスが悪くなっていたと思います。
ラキアが「幸果に過去を知られたくない」とか言い出したときは恋愛路線突入か?!と少し不安になりましたがそうはならなくて良かったです。


■駄菓子屋の伯父さん
・メインストーリーでは明らかに脇役で最終的に果たした役割も明白だったのであまり語ることは無いんですが、日常面ではショウマの2つ目の居場所として存在感を発揮してほしかったです。
血縁者かもしれない前フリとかそういうのを抜きにしても、お菓子好きの店長と常連としてお菓子のことで盛り上がったりしてショウマをただのショウマとして受け入れてくれる普通の人として活躍してほしかったです。

・そういう点では地味にデンテと役割が被り気味だったのかもしれません。
「ショウマを頼む!」みたいなことを影でショウマの知人に言ってまわるような役割はデンテがやってましたからね。
被るなら被るで後半は後見人的な役割を駄菓子屋さんにバトンタッチするのも「デンテくらいしか頼れる相手がいなかった序盤に比べて人間社会でも頼れる相手ができた」という変化を描けて有りだった気がします。


■酸賀/仮面ライダーベイク
・2クール目の立役者であり、停滞感の兆しでもあり、評価が難しいキャラでした。
個人的にはラキアの次に香村さんらしさの出たキャラだったと思います。
過去の開示で短いながらも趣のあるキャラに仕上がっていました。こういう敵をコンスタントに出せると悪役側のドラマも成立しやすそうなのですが。
酸賀じゃなくてニエルブがビターガヴを操っていたら2クール目の中だるみ感は遥かに酷くなっていたでしょう。
グラニュートとは関係ない狂人として世界を広げる役割も果たしてくれました。

・ただ、自己完結性が高かったためストマック社も主人公側もあまり話が広がらない原因にもなってしまいました。
酸賀は酸賀だけで完結していて他のキャラや話し相手などを必要としていませんでした。
他のキャラとの共通項や酸賀を倒したらどうなるかって内容が特に無いんですよね…
そういう点では大統領よりもストーリーを停滞させてしまった原因でもあると思います。


■ジープ&シータ、リゼル
・シータは双子の片割れでしかなかったので特に印象は残っていません。
ジープは思ってたより動きが無かったのが残念でした。
ビターガヴに改造されてもなお弱いとかはそういうキャラなのでいいとしても、16話でフェードアウトして29話で再登場したのにまともに動いたのが最終回は間が空き過ぎでした。

・リゼルももっと何かあるキャラかと思っていたら何なくて肩透かしになったキャラでした。
ストマック家と違って因縁すら無いので本当に「大統領の娘」でしかありませんでした。
父親にも理解されない感覚や底知れない実力があるかと思ったら最後には急に弱くなっていたのでそういう意味でも肩透かしでした。
もっと興味本位に状況をかき回してくれるキャラかと思ったのですが実際にはトップクラスに何もしないキャラでした。
「ジープの話を進めるための相方」としても話の脈絡が弱くてリゼルの貢献は特に印象に無いんですよね…
「ランゴやニエルブが大統領相手にリゼルを人質に使うがあっさり切り捨てられて殺される」くらいの踏み台にはなってほしかったです。


■グロッタ
・一番何もなく持て余した幹部でした。
強さもストマック社での階級も全てがNo2止まりで野心も無いので本当にやることがありませんでした。
三下ポジションではあったんですが、終盤は悪役として格が上の大統領からすればみんな三下だったので特にグロッタの必要性はありませんでした。

・本人にそんな気はないのに兄妹にもわりと嫌われてるし、いろんな意味で空回りしてばかりでした。
「(兄妹の本心とか)何も知らないから現状に満足してる人」として兄妹の軋轢を描く軸の役割を果たしたりすることもできたでしょうに。
「本当は酸賀と戦う予定はなくて、グロッタが2クール目に戦って倒される予定だった」と言われても納得がいきそうなくらいに出番も活躍もスカスカでした。


■ニエルブ
・ガヴの悪役の中ではまともな出番とキャラクター性が有る方だったと思います。
肩透かし気味なところはありましたが、最後の呆気なさも含めてあれはあれで作風には合ってると思います。華々しく散るなんて贅沢ですからね。
ショウマを逃がしたり、酸賀と協力したり、ヴラムを開発したり、ジープにビターガヴを移植してみたり、適宜アクションは有ったので持て余していた感は薄かったです。
頭脳は思ってたより残念でしたが、こうして振り返ってみても行き当たりばったりというか特に計画性や進捗が感じられないので、あぁなるのも納得はできました。
客観的に見れば猿山の大将でしかなかったので仕方ありません。解釈次第では「頭脳派のニエルブと言ってもストマック家という狭い枠組みを中心にしてしか物を考えられなかったことが敗因」と言えるのかもしれません。


■大統領
・ストマック家もしのぐグラニュート界の最高権力者らしく横暴の塊でした。
シンプルでしたが存在自体はそんなに悪くなかったと思います。
ラキアの復讐話とかもランゴより前に終えちゃえば、ストマック家との因縁はもうほぼ残りませんし、
終盤の流れを考えると、ストマック家は3クール目のランゴ撃破の時点で壊滅させて、「誘拐どころか人間界支配を目論むストマック家を上回る巨悪との対決」という流れに完全にシフトした方がまとまりが良かった気がします。
この流れでもジープやリゼルは実際の本編の流れと大差なくやることもできたでしょう。
ストマック家と並走させたことが悪かったと思います。途中で倒されるなら倒されるでストマック家を外からかき乱す役割を終えた時点でランゴの代わりにマスターモードにやられるなどもっと早く倒されて白黒つけておく方が良かった気がします。

・本編の流れとは全然違いますけど、「人間界には全く関わらずグラニュート界を苦しめる悪」としてランゴ撃破後に登場して、
「ショウマや絆斗は見ず知らずのグラニュート界を救うために戦えるか?」という第二章にシフトするのも有りだったかもしれません。
そういう一段落させてからの明確な別の話を始める形式なら香村さんの悪癖を緩和するのに効くかもしれませんし。


あとがき

・振り返りながらいろいろ考えてみたら、個人的には『仮面ライダーウィザード』に近い印象だと思いました。
ウィザードは喪失の物語であり、最後に近づくほどヒーローとして振る舞っていた主人公が本当はどういう人物であったか浮き彫りになっていくお話でした。
物語の流れは不幸のどん底からスタートして幸せになっていくガヴとは真逆でしたが、全体の味わいは似たところがある気がします。
派手なストーリー展開は序盤以外は少なめでしたが、メインキャラのドラマは最後までじっくりと続いていったので個人的には充分満足でした。







コメント

0 件のコメント :

コメントを投稿

 コメントは承認後に表示されます。
*過度に攻撃的な言葉や表現が含まれている場合、承認されない場合がございます。節度と良識を保った発言をお願いいたします。